
俳優、歌手などマルチに活躍する桐谷健太さん。昨年はCMソング「海の声」が大ヒット、今年は映画「火花」で主演されます。作家の林真理子さんがその舞台裏を伺いました。
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林:映画、拝見しました。売れないお笑い芸人二人の青春が目まぐるしくて目まぐるしくて、笑っちゃうんだけど、最後は悲しすぎて……。青春の日は長く続かないよとわかってるけど、神谷さん(桐谷さん演ずる先輩芸人)は最後までわかってるのかわかってないのか。
桐谷:後輩の徳永(菅田将暉)はやめていきますけど、神谷はずっと続けるかもしれないですね。神谷がある種「天才やな」と思わせるのは、あきらめるというスイッチがないところやと思うんですね(笑)。
林:でも、天才を演じるって難しくなかったですか。
桐谷:理解されない天才ってどうあらわしたらええねん、と思いましたよ。たとえば観客がみんな「こいつ、天才やな」と思うキャラクターになったら「じゃ、売れるやろ」となってしまう。時代と噛み合ってない天才。そのバランスが難しかったです。
林:そうですよね。ほんとにおもしろかったら売れてますもんね。
桐谷:でも、最後のシーンで後輩の徳永にメッチャ怒られてもケロッとしてるあの感じが、神谷の天才たるゆえんかなと思えたんですね。僕も大阪から東京に出てきて、売れてない時期があってつらかったんですけど、そのときにしかないおもしろさがあったなと、あらためて思い出したりもしました。板尾(創路)さんが監督だったのも大きいですよね。
林:板尾さん、芸人さんですよね。
桐谷:そうです。
林:空気もよくわかってるし。
桐谷:全部わかると言ってました。
林:私がすごく好きなシーンは、神谷と徳永が、公園で変わった太鼓をたたいているお兄さんに出会うじゃないですか。お兄さんに神谷が「なんでたたくのやめるんや。自分を表現しようとやってるんやろ。俺はどんな音がするのか聞きたいんや。楽しませてくれや」と言うでしょう。あれが神谷の本質をあらわしていると思うんだけど、天才だけが言える真実があそこに込められてるような気がします。説教とも違うし……。