プラント輸出の動向に詳しいエンジニアリング・ビジネス誌の宗敦司編集長は、「英国はほかの国に比べてリスクは低いとされているものの、それでも問題は山積み」と話す。

「まず英国では労務費が高いうえに大量の建設作業員の確保が難しい。それに環境保全コストもかさむ。建設工事がスムーズにいかず工期が長引くようなことになった場合、そのぶんの損失を日立側が被ることも想定されます。プロジェクトは日揮、米国のベクテルとコンソーシアムを組んで進めますが、日立と日揮には原発を輸出した経験がない。このため、思いもよらないトラブルが起きた際、3社がうまくまとまるかどうかは未知数なのです」

 この3社は今回、工事遅延などで発生した損失は、事前に決めた割合で全社が責任を負うとしている。だが、予想外のもめ事が起きない保証はない。

 事実、アレバの新型原子炉「EPR」を建設中のフィンランドのオルキルオト原発3号機とフランスのフラマンビル3号機では、コンクリートの欠陥などから完成がずれ込み、追加費用の支払いを巡って訴訟にまで発展した。

 英国で建設予定のある別の原発でもこうした問題は起きていると説明するのは、ドイツ在住のジャーナリスト川崎陽子氏だ。

「英国のヒンクリーポイントではフランスと中国が原発を建設する計画ですが、着工が遅れて追加支払額だけでも当初の60億ポンド(約8900億円)から200億ポンド(約2兆9800億円)以上に増えています。それでも一度動きだした計画はやめられない。現地では、日立はこうしたことを顧みなくていいのか、という声も出始めています」

 そもそも英国ではブラウン政権が08年に温暖化対策とエネルギー保障の観点から原発推進へ転換、一時期は海外からの売り込みが押し寄せた。しかし、福島原発事故をきっかけに原発市場が先細りしたため、各社が蜘蛛の子を散らすように撤退した経緯がある。

 後釜に据えられた格好になった日立は大丈夫なのかとの指摘だ。

 英国独特の差額調整契約制度(CfD)の問題もある。

「CfDとは、電力の基準価格を政府が最初に決め、市場価格がそれより下がれば政府が電力事業者に差額を支払い、逆に上がれば事業者が政府に支払う制度です。基準価格次第で原発の収益ラインが変わってきますが、日立が造る原発に関して価格が決まるのは来年。価格次第で原発の経営に影響を及ぼすことが考えられます」(宗氏)

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