時短を成功させるためには、インセンティブを与えたり、遊び心を加えたりして従業員に「早く帰ろう」という意識を持たせることが重要のようだ。

 また、トップの確固たる意志を時間をかけて浸透させていく努力も必須である。その点、今年1月に日本電産が発表した「残業ゼロ宣言」はすごい。20年までに1千億円を投資して約1万人の従業員の残業をゼロにするという宣言だ。

「今はムーブメントが大きすぎるが故に、多くの企業が拙速な対応に陥っていると感じます。それに対して日本電産は、3年間という長期的なスパンで目標を設定し、具体的な方法を明示しています。何より、トップが強いリーダーシップをもって、『うちはこれだけお金をかけてやるんだ』と不退転の決意で宣言していることが素晴らしいと思います」(株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ代表 取締役社長で、経営コンサルタントの横山信弘氏)

 こういう長期計画なら、経営陣と現場との意識のズレが生じにくいのだろう。しかし、拙速に時短を強行する企業では、現場がついていけず、ジタハラが多発することが危惧される。

 そのジタハラは、「実は労働時間の問題ではなく、パワハラの部分が大きい」というのが横山氏の持論だ。電通の事件も、単に長時間労働があっただけでなく、パワハラがからんでいたことは容易に想像できる。やむなく長時間労働をするにしても、上司がもっと人間的な扱いをしてくれていたら、そこまで追い詰められることはなかったのではないか、というのだ。

 確かに、時短も長時間労働も企業の方針であり、一従業員がどうにかできる問題ではない。

 しかし、ハラスメントは個人対個人の問題だ。

 上司が日頃から配慮をもって部下とコミュニケーションをとっていれば、「早く帰れよ」という言葉が嫌がらせだと受け止められることはないだろう。

「そういう意味で、中間管理職の役割は重要です。直属の上司の立場にある人は、日頃から部下に声をかけ、コミュニケーションをとることです。そうすれば、時短に苦しむ部下もジタハラで追い詰められることはないでしょう」(横山氏)

 拙速な「時短」がかえってジタハラ、パワハラを生みかねないことを肝に銘じるべきかもしれない。(ライター・伊藤あゆみ)

週刊朝日 2017年4月14日号より抜粋