大村さんは約20年前からビル管理の仕事を父親から任されていた。両親は大村さん夫婦を信頼しており、家裁に対しても「今までどおりのやり方で財産管理をしてほしい」と、A弁護士の後見人就任に異議申し立てをした。にもかかわらず、家裁はこれを拒否。6月には正式に後見人としてA弁護士が選任された。

「銀行口座もA弁護士の許可がないと使えません。きちんと支払いをしてくれず、両親の医療費や介護費なども払えなくなりました。面会の約束をしても当日の朝にドタキャンされ、会うこともできません。施設を強制退去寸前になったこともあります」(大村さん)

 後見人についての苦情窓口を設けている一般社団法人「後見の杜」の宮内康二代表は言う。

「家裁に法定後見の申し立てをすると、申立人に有利な結果になりやすい。大村さんのケースでは、将来の遺産相続が引き金になっていて、妹に都合のいい後見人がついている。これは成年後見制度の趣旨に反することで不適切。家裁は提出された書類だけを重視するので、現状の把握ができていないのです」

 大村さんは現在、後見人の選任の過程に瑕疵(かし)があるとして、裁判を起こしている。だが、大村さんのケースのように、後見人が一度選任されると、解任することは難しい。それが不正の温床にもなっている。

 昨年7月には、90代の認知症の女性の後見人をしていた渡部直樹元弁護士が、計4100万円を女性の口座から着服していたとして逮捕された。そのほかにも別の認知症の女性ら2人も被害を受けていて、着服額の合計は1億1200万円にのぼった。そのカネは、キャバクラなどに浪費された。

 この事件でも、女性の家族は家裁にたびたび後見人の怠慢な仕事ぶりを指摘していた。しかし、聞き入れられず、事件化したのは渡部元弁護士が警察に自首したためだった。成年後見制度に詳しい司法書士の中村圭吾氏は言う。

「今の制度は、後見を受ける人の自由意思を考慮しないものになっています。本来は、判断能力が衰えて困っている人を助けるのが後見人の役目。財産が減らないように管理していればいいわけではありません」

 最高裁の調査によると、親族らを含めた成年後見人全体の不正は近年増加傾向にあったが、昨年は前年比で310件減少の521件(被害総額29億7千万円)となっている。一方、昨年の弁護士ら専門職の不正は前年より15件増え、過去最多の37件(同1億1千万円)となっている。

 事件化まではいかなくとも、後見人を巡るトラブルは後を絶たない。

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