イン・サンセバスチャン
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CD不況を吹き飛ばすにはライヴ盤を出そう
In San Sebastian (Sapodisk)

 さて、みなさんはもう『ビッチェズ・ブリュー・ライヴ』を入手されただろうか。前半がニューポート・ジャズ・フェスティヴァル(69年)、後半がワイト島ライヴ(70年)の抱き合わせ、しかも1枚のCDに収録されている。

 思うに、昨今のジャズ不況(あるいはCD不況とか音楽不況とか、さまざまに言われていますが)は、とにもかくにも問答不要の「ものすごいライヴ」を出せば乗り越えられるのではないだろうか。

 マイルスでいえば、まさしく上記のライヴ盤や昨年のタングルウッド級のブツ。早い話、初心者であれマニアであれ、ものすごいライヴを聴いて「ものすごい」と感じるのは同じだと思うわけです。つまりライヴ盤というのは、理屈や知識を超えた、実にわかりやすい魅力をそなえている。そういうライヴをドカンとかませば、飛びつく人、多いのではないでしょうか。

 再び話をマイルスに戻せば、もうスタジオ・レコーディングのアウト・テイクや別ヴァージョンや試運転ヴァージョンなどは、はっきり言って、出す必要ないのです。これまでよくもまあ出しつづけてきたものです。しかも豪華な箱に入れたりして。反エコ的無駄な抵抗は、もうやめましょう。『ビッチェズ・ブリュー・ライヴ』のように、安価で聴きやすいライヴ盤をどんどん出せばいいのです。

 というわけで、今週はスペイン、サンセバスチャンにおけるライヴ。1986年7月ということは、ギターはロベン・フォードになります。ベースはフェルトン・クリューズ。その他のメンバーはお馴染みの面々ですが、この音源はラジオ放送なのでしょう、いつもより鮮度を増した演奏は、お馴染みながらも新鮮な響きにあふれています。

 冒頭の《ワン・フォン・コール/ストリート・シーンズ》は残念ながらフェイドイン状態ですが、音がいいので許しましょう。マイルスは今日も快調、いったいどこからこのような強靭な精神に支えられたエネルギーが湧いてくるのでしょう。

 収録曲では、やはり《アル・ジャロウ》に感動を覚えずにはいられません。哀愁のメロディーとは、こういうものを言うのではないでしょうか。なお、このCDでは最後に演奏されたようにみえますが、実際にはこのあとに《ジャン・ピエール》が演奏されたはず。ともあれ、この種のライヴを公式盤として連発すれば、CD不況など吹き飛ぶと、いささか楽観的ではありますが、思うのです。ではまた来週。

【収録曲一覧】
1 Speak / That's What Happened
2 Star People
3 Maze
4 Human Nature
5 Wrinkle
6 Tutu
7 Splatch
8 Time After Time

Miles Davis (tp, key) Robben Ford (elg) Bob Berg (ts, ss) Robert Irving (synth) Adam Holzman (synth) Felton Crews (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per)

1986/7/24 (Spain)

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