個人や企業などが起こす不祥事。当事者のその対応もさることながら、日本人の批判に偏りが大きいとジャーナリストの田原総一朗氏は、指摘する。

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 ドイツを代表する世界的企業であるフォルクスワーゲン(以下、VW社)の不祥事が深刻な事態になっている。ディーゼル車の排ガス量を違法に操作するソフトウェアを使っていたことが露呈したのだ。

 VW社は、2006年から環境性能の良さをうたった「ブルーモーションテクノロジー戦略」を進めていた。08年のロサンゼルス自動車ショーで乗用車「ジェッタ」を発表し、ヴィンターコーン社長は「18年までに1千万台を達成し、トヨタを抜いて世界一になる」と宣言した。そして「ジェッタ」は狙いどおり、その年の米グリーン・カー・オブ・ザ・イヤーを射止めた。

 そのVW社が、とんでもない“完全犯罪”を行っていた。私は不正発覚の情報を知っても、容易には信じられなかった。ドイツの代表的企業であるVW社が、そのような犯罪的不正をするはずがない……。私はドイツの学者やジャーナリストたちと何度もディスカッションをしたことがある。彼らは「公共」ということに対してあいまいさもエゴの付け入る不明瞭さもなく、そのたびに、自分のいいかげんさを思い知らされたからである。そのドイツの代表的企業が、犯罪的不正をやってしまった。

 ただし、不正発覚からの対応は速かった。米当局が不正を公表したのは9月18日だったが、VW社は事実関係を即座に認め、ヴィンターコーン社長は23日に辞任を表明。10月7日までにリコールの計画を発表すると決めた。それだけではなく独検察当局の捜査も始まり、ヴィンターコーン前社長の逮捕、取り調べはもちろん、VW社という企業が生き残れなくなる恐れが強いとまで見られている。ドイツ人たちの潔癖さは、こうした不正企業の存続を許さないというのである。

 ところで、VW社の厳しい前途を報じている各紙が、同じ紙面で、東芝の15年3月期決算の報告と経営体制刷新のための臨時株主総会が開かれたことを報じている。

 
 総会に出席した株主は1924人。6月の定時総会と比べて4割少ないが、室町正志社長の責任を追及する声は厳しかったようだ。

 総会で室町社長は、「株主の皆さまの信頼を裏切り、市場を混乱に陥れたことを深くおわびします」と述べた。途中、何度も怒号が飛び、中断する場面もあったが、結局、取締役11人の選任案など会社が提案した議題は承認されたということだ。

 それにしても、東芝の臨時株主総会を報じる記事は、なぜこれほど遠慮っぽいのか。東芝の会計不祥事は、言ってみれば粉飾決算の類ではないのか。それも2千億円以上も利益をかさ上げしたという大不祥事だ。例えば旧ライブドアの粉飾決算事件で堀江貴文元社長は懲役2年6カ月の実刑判決を受けた。私などには、両者の違いがよくわからない。堀江氏が天下の悪人として袋だたきにされたのに対して、東芝事件は「不適切会計」という表現となっている。

 ドイツのジャーナリストたちとのディスカッションで、私が日本人のあいまいさを思い知らされたのは、例えば第2次大戦についてであった。

 ドイツは第2次大戦の総括をきっちりとやっているが、日本はついに総括をしなかった。それどころか、戦後追放された政治家たちが復活して自民党の幹部になり、A級戦犯容疑で逮捕された人物が首相にまでなった。東芝事件もあいまいな形のまま終わってしまうのだろうか。

週刊朝日 2015年10月16日号