ただ、昭和天皇の戦後の言動をみると、戦争全体への強い悔恨を生涯抱え続けたことも事実だろう。側近に聞き取らせた回顧録はいずれも満州事変前後から始まっている。中国のとう(※)小平、韓国の全斗煥、フィリピンのコラソン・アキノらアジアの元首級の賓客との会見では、役人のシナリオを超えて遺憾の気持ちを伝えた。自民党閣僚の過去の侵略や植民地化を正当化する発言や靖国神社のA級戦犯合祀(ごうし)に強い不快感を示していた。

 現天皇陛下は今年、年頭所感で戦後七十年の節目について「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」と述べた。

 皇太子時代から歴史に関心が強く、近代史についても専門家を内々に呼び意見交換してきた。例えば伊藤隆東大名誉教授は突然呼ばれて昭和史談義したことを「夢ではなかったか」と近著で明かしている。昨年奉呈された『昭和天皇実録』についても、何人も昭和史の専門家を呼んで意見に耳を傾けているという。

 短い所感に加えた「満州事変に始まる」の八文字には、決して思いつきではない、深い思いが込められているとみるべきだろう。「敗戦」の象徴的遺物の公開を前に、あの戦争の過ちを改めて省みてほしいという「深慮の布石」だったかもしれない。

※とう…環境依存文字のため、ひらがなで表記。元の字は1文字で「登」におおざと

週刊朝日 2015年8月14日号より抜粋

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