2016年、保釈中のフナイムさん(提供)
2016年、保釈中のフナイムさん(提供)
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  特殊詐欺事件の主犯として活動していた男性(42)は、出所後、刑務所で呼ばれていた番号「2716」から、自らを「フナイム」と名乗り、その経験を語っている。

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 23歳で“闇バイト”の世界に足を踏み入れ、詐欺行為を繰り返した。当初は「使われる側」だったが、いつの間にか「使う側」になっていた。35歳のとき、高齢者から金をだまし取ったとして、逮捕された。懲役5年4カ月の実刑判決を受けた。

 服役してすぐのころは、償いの気持ちをあまり持てなかった。だが、高卒認定試験の勉強を始めて、自分の常識が世間と違うことに気づいたという。

 きっかけは、倫理の教科書だった。そこに並ぶ言葉を「きれいごと」に感じる自分に、疑問を抱いた。1冊の教科書を約4カ月にわたり、何度も読み返したというフナイムさんは、どう変わったのか――150分間にわたって、アエラの取材に応じた。

*  *  *

――疑問を抱いたとのことですが、その答えは見つかりましたか。

 思い返すと、僕は幼いころから利己的でした。たとえば、おもちゃを買ってもらえないからと祖母を蹴ったことがあります。幼稚園では、周りに注目されたくて、嘘を積み重ね続けました。そんな自分を「最悪だ」と思う半面、謝ることはできませんでした。

 そんなことを考えていると、被害者の方の気持ちを考えず、減刑のために示談に持ち込んだのも自分のことしか考えていないよな、と思ったんです。嘘をつかず、誠実に生きたい。ノートに偉人の言葉を書きためて、毎晩、読み返すようになりました。

――初めて謝罪の気持ちが生まれたのですね。

 そうです。刑務所のなかで、「悲しい」という感情も理解しました。

――具体的には。

 服役して2年ほどたって、父親から初めて手紙が届きました。「お前のことは許せない」とあり、それ以来連絡を取れていません。

 妻と子どもとも手紙でやりとりしていましたが、2年くらい過ぎたころ、手紙の頻度が少なくなりました。手紙の最後にはいつも「大好きだよ」と書いてあったのも、いつの間にかなくなっていた。家庭のことが忙しいのかなと思っていたら、結婚記念日直前に「離婚したい」と書いた手紙が届きました。出所後に知ったのですが、そのときには他の人がいたようです。

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被害者からは「もう関わりたくない」