待機していた麻酔担当の山村秀夫医師が「ガスを吸入していただきますが、いいですか」と尋ねると、美智子さまはうなずかれました。麻酔が効いている間、美智子さまは白い蝶が飛んでいる夢を見られたそうです。30日午前0時22分、美智子さまは第2子をご出産になりました。天皇家初の麻酔による無痛分娩でした。体重3千グラム、身長51センチ。浩宮さまと5歳9カ月離れた次男坊殿下・礼宮文仁親王の誕生です。
この時、立会人を務めた佐藤東宮侍医長は、流産を克服しての出産だけに喜びを抑えきれず体が震えたと当時をふり返っています。生まれたばかりの礼宮さまは御静養室の美智子さまの傍らですやすやとお眠りになっていました。細菌感染を防ぐため授乳時以外は新生児室で母子別室だった浩宮さまの時代から考えると画期的な進歩です。赤ちゃんの純白の産着は美智子さまがご自身の手で縫い上げられたもの。ふと美智子さまは、女官にお尋ねになりました。
「浩宮のときは苦しかったけれど、今回は全く苦しくなかったのはなぜでしょう」
山村医師は後日、御静養室を訪ねたさいに、こう説明したそうです。「麻酔をしたからです」。続けて「産声だけはお聞かせしたいと思いましたので、痛みは取りながら意識は残るように麻酔をしました」というと、美智子さまはにっこりとお笑いになったそうです。
美智子さまのたっぷり出る母乳を飲んですやすやと眠る礼宮さまは泣き声もむずかりようも男の子らしく活発でした。美智子さまは「東宮のスサノオ」と言ってお笑いになったそうです。