蛍? 人魂?
森の中に妖しく浮かぶ白い光。東京・お台場の夜景を望む海辺に舞い狂う光の糸。
これらの写真の種明かしをすれば、どれも、長時間露出の状態で、この写真を撮った佐藤時啓氏自身が、ペンライトを持って動き回ったり、所々で手鏡で太陽光を反射させたりした光の軌跡である。長時間露出のため、動き回る作家自身の姿は消えてしまい、動かずに存在する事物と光だけが写真の中に残るのだ。
現在、佐藤氏のこれまでの代表作を集めた大きな展覧会が、東京都写真美術館で開催中だ。理屈は抜きにして、不思議な光の世界を体験してみよう。展覧会のタイトル「そこにいる、そこにいない」のとおり、いるはずなのにいないもの、見えないはずなのに見えるもののパラドックスが、見る者を軽い錯誤の世界に誘うだろう。だが、ただシンプルに、巨大プリントの幻想的な美しさに身を委ねてみるのもおすすめだ。
※週刊朝日 2014年6月27日号
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