「今後の御陵及び御喪儀のあり方について」の発表が11月14日に行われ、天皇皇后両陛下が火葬されることなどが決まった。「陵(みささぎ)」と呼ばれる天皇、皇后などの墓は、これまで大規模なものが築かれてきたが、天皇陛下は国民負担の低減のために質素なものを希望している。実際、陵の造営にはどれくらいの費用がかかるものなのだろうか。昭和天皇の場合を調べてみた。
天皇陛下の陵は、生前に造営が始まることはない。逝去されると同時に、大規模な工事が急ピッチで進められることになる。その費用はいくらくらいなのだろうか。1989年1月7日、昭和天皇が逝去された当時の様子をみてみよう。
昭和天皇の葬儀など一連の儀式は、明治以来の形を踏襲しつつ、実施された。生前に極秘で準備されていた点もまったく同じだ。宮内庁は、「(葬儀の内容は)必ずしも公表を要しないことがら」という立場だ。余談になるが、今回、両陛下の葬儀方法について宮内庁が事前に発表したことは、「例外中の例外」であるわけだ。
昭和天皇のご遺体はまず、「新年祝賀の儀」なども行われる皇居の正殿「松の間」に設けられた「殯宮(ひんきゅう)」に安置された。1月17日、武蔵野陵では報道陣を締め出す厳戒態勢の中で「陵所地鎮祭の儀」が行われ、造営工事がスタート。わずか1カ月後の2月24日の「大喪の礼」に間に合うというスピード工事で、葬儀と陵の造営でかかった費用は計100億円だった。
工事は、大手建設会社が随意契約で受注するのが常だ。2012年6月に亡くなった「ヒゲの殿下」こと寛仁さまのお墓は、大林組(東京都港区)が約5500万円で受注。宮内庁担当記者は「同様に天皇陛下と美智子さまの陵も、随意契約によって発注されると思われます」と話す。
「極力、国民生活への影響を少なくしたい」と望まれている天皇陛下と美智子さま。昭和天皇陵と香淳皇后陵の合計面積に比べ約8割の大きさの陵となるため、造営費用は削減されるとみられている。
だが、火葬されることになったため、新たな儀式と武蔵陵墓地内に設置する火葬施設が必要になった。14日の宮内庁の会見では、記者から「簡素化のご意向に逆行しているのではないか」との質問も出た。風岡典之長官は「経費節減や国民負担低減を軽視しているわけではない」と反論しながらも、「できるだけ小規模なものにする心がけで取り組みたい」と答えるにとどまり、総工費は示されなかった。今後、葬儀全体の具体的な中身を詰めつつ、費用面からもより良い形を探るという。
※週刊朝日 2013年11月29日号