2020年東京オリンピック開催が決まり日本経済の再生を期待する人も多いが、早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏は、前回の東京オリンピックを経験していない世代に対してこのように語っている。

*  *  *

 東京にオリンピック招致が決まって、うっとうしいことである。余生を静かに過ごしたい老人にとって、街がうるさくなるのはかなわない。もっとも、2020年まで生きているかどうかわからないので、7年後のことを心配しても仕方がないか。

 オリンピックはともかく、数年後の日本の運命を決めるのは、来年4月に予定されている消費税の引き上げを決行するかどうかである。首相の首と引き換えに、消費税の増税を推進した野田前首相は、増税を先送りすれば金利が上昇し、国債の利払い増加で財政は破綻すると安倍政権を牽制したという。

 国の赤字が1千兆円もある日本が、ともかくも破綻しないで何とかなっているのは、日本の消費税率が他の先進国に比べて低く、増税すれば乗り切れるとの期待があるからだ。一度決めた消費税アップを先送りすれば、日本の信用は下落して、国債の価格は下がって金利は上昇し、野田前首相が懸念する事態に近づくことは間違いない。だから一般論としては増税を先送りする選択は、長期的には日本破碇への道である。

 しかし、短期的には消費税率を上げれば、一時的に景気は冷えて、税率アップに反対している過半数を超える国民の不満は大きくなるだろう。消費税率を上げればデフレも進むので、デフレ脱却を掲げている政権はどう対処するのかしら。政権の支持率が急落して退陣要求が強まるかもしれない。首相の側近には消費税率のアップに強く反対する人がいるようなので、ひょっとすると、消費税増税は先送りされかねないが、安倍の首はつながっても、日本の破滅は前倒しされることになろう。

 オリンピック招致で大手ゼネコンの株は上がっているらしい。国土強靭化というお題目と合わせて、日本は土建国家へ逆戻りだ。消費税率をいくら上げても、青天井で国の金を使いまくる構造が変わらない限り、国の借金は加速度的に膨らんで、ギリシャのような事態になるだろう。

 現在の日本の元凶は二つあって、ひとつは膨大な国の赤字、もう一つは福島の原発事故。誰も責任を取ろうとしない所もよく似てるし、場当たり的な対応ばかりで抜本的な対策を全く取らないばかりか、焼け太りしている所もそっくり。こんな状況でオリンピックを招致するのは国民の目を酷い現実から逸らすつもりに違いない。そういえば、赤字国債は前の東京オリンピックの土建事業の赤字の穴埋めから始まったんだよ。若い人は知らないだろうけどね。

週刊朝日 2013年10月4日号