──それは土方さんが監督された前作「ヤクザと憲法」で、大阪の暴力団の部屋住みとなる気の弱そうな若者にカメラを向けていったのに通じるものを感じました。

「今回『社員』をそんなに描いていないんですよね。本来は東海テレビの報道の中枢を担う人たちを描くべきなのに、出来ていないという指摘を受けることがある。それはそのとおりなんですが、彼は立場も弱ければ隙がありすぎる。彼を見ることで間接的に組織が見えてくるだろうという意識ありました」

──その予測はどの段階で?

「極論すると、初日から。そこは意見が分かれたところなんですが」

──取材チームは土方監督と撮影カメラマンの中根芳樹と音声の枌本昇の三人編成。カメラマンから「おまえの趣味として(ワタナベくんを)おれは追いかけるからな」と言われたとか。

「つまり、自分は被写体としての魅力は感じない。撮りたい理由はよくわからんけど、ということです」

──そう言いながらもじつに丁寧に撮っていますよね。

「それはカメラマンが優秀だからですよね。彼以外にもあらゆるものを丁寧に撮っていますから」

──ワタナベくんがミスをして放映が見送りとなる。そのことを取材者に説明しに行かなければいけない。その彼に原因は何だったのかを問いかける場面。彼は、ごまかさずに正直に振り返り、ひとりで謝りにいく背中を映します。

「あのとき、自分を冷静に見ているなぁという印象はもちました。ほかにも(派遣ゆえ)彼には一年で成果を出さないといけないプレッシャーがある。その恐れを『わかるよ』と正社員のぼくは言えない。そういうことを彼から突きつけられるということはありましたね」

■テレビの役割とは何か?

──映画の中で「テレビの役割は何か?」と社会科見学の小学生たちに教える場面があります。局員が「権力の監視」とともに「弱者の味方」だと説明する。何気ない場面ですが、これがボディブローのように効いてくる。職場で明らかに「弱者」で「足を引っ張る」ワタナベくんを見る周囲の眼は冷たい。時間に追われる職場だけに余裕がないのもわかる。でも「弱者の味方」と耳にするたび、違和感を抱く構成になっています。

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ロボットに人間らしさがあるのか?