僕らが10代の頃は、音楽を聴くのはラジオが中心でした。
CDレンタルはおろか、貸しレコード屋さえない時代です。ラジオやテレビで流れた曲の中で気に入った曲のレコードを買うのですが、限られた小遣いの中からやりくりせねばなりません。
当時のシングルレコード(EP盤)が400~500円、アルバム(LP盤)だと2000円前後です。ラーメン一杯が150円程度でしたから、子供としてはかなりの高額商品でした。(ちなみに初めて買ったシングルレコードは上條恒彦(かみじょうつねひこ)の「だれかが風の中で」で400円、アルバムは吉田拓郎(よしだたくろう)の『ともだち』で1700円でした)
レコードを友達と貸し借りするにも限界があり、お気に入りの曲はラジオで流れた時にカセットテープに録音して何度も聞くというのが普通だったんじゃないかと思います。
大学に入った頃には、FMの方がメインになってました。
音質もいいし、曲を最初から最後まで丸ごと一曲ちゃんとかけてくれるし、なによりFM情報誌には番組表がついていたので、お目当ての曲がかかる時間が先にわかるのです。これは有難かった。
「FM STATION」とか「FMレコパル」などの雑誌の後ろについていた番組予定表、そこから録りたい曲を探してラインマーカーでチェックする。
「午前11時からの番組と午後2時から、そして午後4時から。この日は学校行けないじゃないか」などと、たわけたことを言いながら、予定を組んでいました。カセットテープが高品質でリーズナブルな値段になったのもこの頃だと思います。MaxellやTDKなどカセットテープのTVCMも目立ってましたね。
今の若い世代には信じられないかも知れませんが、安価で好きな曲を手に入れるためには、結構な努力をしなければならなかった。エアチェック世代とでも言いましょうか。
ただ、大学も後半になると貸しレコード屋が出現し、あっという間にそちらに流れていきました。
FM情報誌から、レコード評が充実している「ミュージックマガジン」に鞍替えしたりしているうちに、いつの間にかFM情報誌そのものがなくなってしまいました。
さて、今の話になります。
この歳になると、若い頃聴いていた曲を改めて手元に置いておきたくなります。
好きだったがお金がなくて買えなかった曲、発売されていなかった曲、レコードは持っているがプレーヤーがないため聴けない曲などなど、欲望は膨れあがります。
ネット検索という神器があるため、思い立つとネットの海にさまよい出て目的のお宝を探しています。
いやあ、実際あるものですねえ。
たとえば「お荷物小荷物のテーマ」。
1970年に佐々木守氏が脚本を担当したこのドラマ、いきなりセットの裏を見せたり、役者が途中で芝居をやめて素に戻り役者自身の意見を吐いたり、当時のドラマの概念を壊した番組でした。このテーマが大好きだったので探していたのですが、オリジナルこそないもののあるバンドのアルバムに入っているのがわかり、iTunesで購入。
また、ずっと探していた曲にタリスマンの『シーズン』があります。
80年代は単発で長尺のスペシャルアニメが多く作られていました。TVシリーズではないので、なかなか顧みられることもないのですが、そんな一本に『姿三四郎』があります。モンキー・パンチ氏がキャラデザイン、宮崎駿(みやざきはやお)氏が在籍した時期のテレコム・アニメーションフィルムが制作した佳作です。(宮崎さん自身は関わっていませんが、『ルパン三世』ファースト・シリーズや『未来少年コナン』の作画監督だった大塚康生(おおつかやすお)氏が作画に加わったりしています)
「シーズン」は、その主題歌。いい曲なんですよ。初演の『阿修羅城の瞳』を書く時にはヘビロテしていました。
録音してたカセットテープがダメになり、また聴きたいと三・四年前からずっと探していたのですが、これがひょんなことでアマゾンで見つけました。さっそく購入ボタンをクリック。
よくこんなものがという曲がCD化されています。
むしろ40代50代の、かつてエアチェックで音楽を集めていた世代のほうが、熱心にCDを買うのかもしれないな。そんな風にも思います。
若い層は、携帯の着うたやiPodで満足している人達も多いんじゃないでしょうか。
昔、さんざんエアチェックしていたのが今ではすっかりアマゾンチェック、iTunesチェックになってしまいました。
あの頃、時間をかけて手に入れていたものを、今はお金で手に入れているんですね。
まあ、探し回っている時に充分時間も使っているんですが。