2月13日の宮沢りえさんの妊娠報道には驚かされました。
翌日、彼女が出演している舞台を観に行く機会があったので、尚のことです。
その舞台というのが野田秀樹(のだひでき)さんの新作『パイパー』です。

松たか子さんと宮沢りえさん、大好きな二大女優の共演ということで前から楽しみにしていたのですが、野田さんの舞台は役者達が激しく動くというのが定番。宮沢さんとは舞台ではご一緒したことはないのですが、僕の芝居が原作になった映画『阿修羅城(あしゅらじょう)の瞳(ひとみ)』で、ヒロインのつばきを演じていただきました。何度か直接お会いしたこともあるので、全くの無縁というわけではない。お腹の子は大丈夫だろうかと、ついつい要らぬ心配までしてしまいます。

でも、そんな心配は無用でした。舞台に登場した瞬間から、これまでと存在感が違う。『人形の家』の時も、いい女優さんだなあと思ったのですが、あの時よりも一段と力強くなっています。やはり、母は強しなのでしょうか。

今回、我が強くずけずけと物を言う男勝りな性格という、あまり彼女では見たことがない役柄なのですが、これが新鮮でいい。彼女にこういう役をふるとはさすが野田さんだなと感心もしました。

もちろん松たか子さんも負けていません。役柄的には、最初は姉と父に振り回される妹役なのですが、ただの受け身では終わっていない。 

 開幕早々、父親が家に若い愛人を連れ込んだことに怒る姉と、その姉もかつて男と一緒に外に飛び出したのではないかという妹のやりとりが繰り広げられます。この丁々発止の会話で、一気に芝居に引きずり込まれます。二人のリズムが出来ているのですね。

後半、構成の仕掛けにより二人の関係が逆転するあたりから彼女たちの芝居は更に熱を帯び、5分以上あろうかという掛け合いによる長台詞は圧巻でした。

僕の個人的な意見なのですが、松さんの最大の魅力は、世界や状況と対峙(たいじ)しても揺るがない個を表現できることだと思っています。女性として、柔らかい母性を持ちながら凛(りん)として大地に立てる人、うーむ、短い言葉で言うのはなかなか難しいのですが、そういう物語を背負って立てる大きさを彼女に感じます。

そんな彼女に、自分も含めて今の書き手はどれだけの物語を与えることが出来るだろうか。つい、そう思いながら舞台を見てしまうのですね。

でも、さすが野田さん。この二人の長台詞のシーンは、見ていてとてもスリリングでした。

流れ上、女優の話しかしていませんが、二人を支える橋爪功(はしづめいさお)、大倉孝二(おおくらこうじ)の両氏もよかったし、なにより『パイパー』という芝居自体が非常に面白かった。

1000年後の火星。人間が移住し、パイパーという人工生命体を作り、幸福感を数値として算出していた理想世界が崩壊し破滅へと向かっている。そんな終末に生きる姉妹とその父が中心の物語です。

かつての野田さんのようなイメージの連鎖と飛躍、言葉遊びはなりをひそめ、比較的シンプルなストーリーが描かれていきます。でも、僕にはそれがとても刺激的でした。

今の状況の中で人はどう世界をとらえ、その中でもささやかな希望をもって生きていけるのか。そのことを真摯に問いかけていると思えたのです。

偉そうに感想ばかりも言っていられません。
では、自分は今、何を書くか。
今、舞台の新作にとりかかっているのですが、改めて、それを問い直しています。