キメの細かい現場対応も検討された。メディアの世論調査では、基地問題が最大の争点だった。一方、勝敗の分かれ目である大票田の那覇市は、辺野古基地建設が進む名護市や米軍普天間飛行場のある宜野湾市から離れている。基地問題への関心は相対的に低い。また、若者世代には経済問題を重視する人も多い。会社のしがらみで投票する人もいる。つまり、基地問題を訴えるだけでは票の取りこぼしがある可能性があった。
そこで、基地問題だけではなく、玉城氏の公約である「誰も取り残さない政治」「中高生のバス無料化」など、経済政策の情報を地域によって前面に出すことにした。
ポジティブキャンペーンの提案者の一人である徳森りまさん(31)は、その狙いをこう話す。
「デマ情報退治は、選対の別の班が対応することになったので、私たちは正しい情報を『広げる』ことに集中しました。公式のLINEグループも作ったのですが、LINEだと年齢層が若いので、玉城デニーに興味を持ってもらえるような映像や写真を広げるようにしました」
動画や写真については、4つの制作チームがあったという。それぞれがコンテンツを制作・公開し、反応がよいものを次々に広げていく。ひたすらそれを繰り返した。また、ツイッターなどのSNSでは「デニってる」というフレーズを合言葉にした。
効果はてきめんだった。それまでツイッターで「玉城デニー」と検索すると玉城氏を批判する情報しか表示されなかったのが、次第にポジティブ情報が現れるようになったのだ。小泉進次郎衆院議員や菅義偉官房長官など、中央で知名度の高い有力政治家を呼び、街宣車の上の高いところから演説をする風景を積極的に配信した佐喜眞陣営に対し、玉城陣営は道端で演説して、時には近寄ってきた幼い子供の目線に合わせてしゃがみこんで話しかける玉城氏の姿などを積極的にネットにアップした。
「最初はちゃんと企画書を書いてたけど、途中からは走りながら考えて、思いついたことは何でもやっていく方針になりました。そういうのがデニーさんの明るい性格と相性がよかったんでしょうね。私たちが次の日の準備を夜中までやっていることを知ると、わざわざ遠くからねぎらいに来てくれたこともありました。それにみんな感激して『デニーさんの人柄を知ってもらうために頑張ろう!』と。もう、選挙期間中の夜はずっと文化祭前夜の準備みたいでした(笑)」(徳森さん)