まず一つ目は食べ物。以前は、サトウキビやミルク粥など栄養価の高いものを与えていた。しかし今は、より野生の食べ物に近づけて、タケやササをメインに与えている。二つ目は身体能力の強化。飼育員が長い棒の先に食べ物をつけてパンダを後ろ脚で立たせて歩かせたり、展示場にやぐらを設け立体的に移動する環境を整えたりして、筋力アップに努めている。そして三つ目は飼育員による綿密な行動観察と記録だ。動物園では、飼育員が毎日、担当する動物の記録(飼育日誌)をつけているが、驚くべきことにシャンシャンが生まれてから約3カ月間は、飼育員が交代で24時間、母子の傍らで観察を続けてきたという。生後まもなくは事故が起きる可能性が高いため、1分毎に行動を記録したそうだ。この細かな観察と記録の蓄積が、母子の健康を支え、順調な成長につながり、今後の繁殖のための調査研究や野生での保護にも貢献することとなる。

 このような工夫や国際的な協力、技術に支えられて、シャンシャンは順調に育っており、一般公開は12月中旬以降を予定している。公開の目安が生後6カ月なのは、「シャンシャンがしっかり歩き、行きたいところに自由に行けるようになるころ」と鈴木さん。公開されて、もしいやなことがあっても、自分の意思で思うように動けるよう配慮しているのだ。

 シャンシャンの父母、リーリーとシンシンは08年、中国四川省で大地震を経験し、11年2月下旬に来日した直後には東日本大震災に遭った。それでも2頭は元気にタケを食べ、訪れた大勢の人に笑顔を与えてくれた(※注)。この両親から生まれてきたシャンシャンを通して、改めて野生動物の保護や持続可能な地球の未来について考えたい。貴重な野生動物の大使、シャンシャン。よろしくね!(動物教材研究所pocket主宰・松本朱実)

(※注)2011年度の上野動物園の入園者は約470万人(通常は350万人程度)。

【メモ】
ジャイアントパンダは1990年に国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定された。近年の保護活動などによって個体数が増えたとされ、2016年には危険度の低い分類の危急種に引き下げられた。

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