(2)「心の折りたたみ方」を学ぶ
「めんどくさい」けれど一手一手を熟考して指す。負けてくやしい気持ちを胸にしまって「負けました」と言う。勝っても万歳はせずに負けた人の心情を察して「ありがとうございました」と礼をする。このような将棋独特の作法を安次嶺氏は「心を折りたたむ習慣」と表現する。この「心の折りたたみ方」を知っている子は、伸びる子が多いという。「藤井聡太四段の言動が大人びて見えるのも、“心の折りたたみ方”が身についているからでしょう。勝利の後のインタビューではひとつひとつ言葉を選び、目の前の負かした相手に配慮したコメントをしているのもその証拠です」。
(3)親は子どもに任せ、見守る
藤井聡太四段の両親は、将棋に関しては素人だったという。将棋を知らないからこそ、将棋に関しては師匠と本人に任せ、ひたすら見守り、励ました。将棋の世界では親が熱心に教えたくても技術的に難しい場合が多く、「見守り」型になることが多いという。
「将棋大会では、親も“がんばれ!”と叫びたい気持ちを我慢し、心の中で必死に無言の声援を送っている光景を見かけます。大声を張り上げて応援するスポーツや競技が多い中、将棋大会には“黙って見守る”“子どもを信じる”という光景がある。これこそ、子どもの自主性を育むのです」
安次嶺氏は、私立小学校の教員としても30年以上のキャリアを持つ。これからの社会を生き抜くために、子どもたちには「挫けない力」を身に付けさせるのが大切だという。
親は子どもに「転ばぬ先の杖」を用意するより、「負ける経験」をさせる、「効率重視」よりも「めんどくさい」ことを丁寧にやらせる、手や口を出さずにじっと見守る……そんな経験の積み重ねが子どもに「挫けない力」をつける。将棋を通して、わが子にも「藤井聡太のメンタル」を育んではいかがだろうか。(AERA with Kids編集部・江口祐子)
安浪京子,加藤俊徳,親野智可等,高濱正伸