■お互いの個性を認め合える雰囲気
吉祥女子創立時の話に戻そう。
同校の創立者である守屋荒美雄氏は「社会に貢献する自立した女性の育成」を掲げ開校準備を進めたが、開校直前に急逝してしまう。同氏の遺志を継いだのは、数学者である息子の守屋美賀雄氏であった。親子2代で興された学校でありながら同族経営ではなく、教職員の自主性に委ねることで現場の創意工夫を促した。それを象徴するのは、守屋美賀雄氏自身が敬虔なカトリック信者であったにもかかわらず、「学校としての多様性を尊重したい」と、宗教色を一切学校に持ち込まなかった点だ。
それから時代は流れた。いまの吉祥女子の生徒たちの雰囲気はどういうものなのだろう。杉野先生はこう表現してくれた。
「本校は、『どんなタイプ』であっても『共存』できる良さがありますね。グループが固定されるようなこともあまりないですし」
山田先生も杉野先生の発言に深く同意する。
「運動系の部活で活躍する生徒、クラスの雰囲気を盛り上げる生徒、芸術に打ち込んでいる生徒、とにかく本が大好きな生徒、あるいは特定分野においてオタク気質な生徒……。本当にいろいろな生徒がいます」
芸術コースを廃しても、吉祥女子が芸術教育をいまもなお大切にしている理由が分かったような気がした。
杉野先生は胸を張る。
「わたしたちは『多様性』という表現をさほど押し付けているわけではありませんが、生徒たちに本校の特色を語らせると『多様性』ということばが自然にたくさん登場します。本校では芸術だけではなく、ジェンダー、国際理解といったものも含めて、さまざまな多様性を認める文化が根付いています。相手をすぐに否定するのではなく、その良さを見つめつつ、互いに尊重し合いながら自分の意見を表明することができる……そういう環境があるのだと思います」
吉祥女子には創立時の精神が確かに引き継がれているのだ。