地球温暖化防止のために、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという目標が掲げられた。「実質ゼロにする」とは一体どういうことなのだろうか? 小中学生向けのニュース月刊誌「ジュニアエラ」2月号で、朝日新聞の編集委員がわかりやすく解説した。
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菅義偉首相が2020年10月26日、就任後初の所信表明演説で、「我が国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言する」と表明した。これを一般には「実質ゼロ」というが、どういうことなのだろうか。
15年に採択された地球温暖化防止のための国際ルール「パリ協定」は、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2度未満、できれば1・5度に抑えることを決めた。そして2度未満に抑えるためには、今世紀後半に人間の活動による(=人為的な)温室効果ガスの排出量と、森林吸収分などによる吸収量が釣り合った状態にする必要があるとした。これが「実質ゼロ」や「正味ゼロ」などと呼ばれるもので、「カーボンニュートラル(炭素中立)」や「脱炭素社会」も、意味はほぼ同じだ。
人間活動によって排出される温室効果ガスのうち4分の3を占める二酸化炭素(CO2)。このうち半分程度は、森林や陸地、海などに吸収される。残った半分が大気中のCO2濃度を押し上げているとみられている。CO2濃度をこれ以上増やさないためには、自然に任せるのではなく、出す分を自分たちの活動によって除去する必要がある。これが「実質ゼロ」の考え方だ。
具体的には人工的な植林のほか、石炭火力発電所や工場などから出る大量のCO2を地中に閉じ込める「CCS」、大気中のCO2を直接回収する「DAC」などの方法がある。だが、いったん大気中に出たCO2を回収するには、膨大な費用やエネルギーがかかり、その効果も限られている。
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