深野さんは、この環境の違いのうち、「競争相手の多さ・少なさ」に着目し、それが草の育ち方にどう影響するかについても調べてみた。都会のメヒシバと農地のメヒシバをまばらに栽培したときと、びっしり密に栽培したときとで、成長のようすを比較してみたのだ。すると、まばらに栽培して競争相手が少ないときは、都会に多い匍匐型の成長がよかった。一方、密に栽培して競争相手が多いときは、農地に多い直立型の成長がよかった。

 さらに、耕運機を使って、農地での刈られやすさを調べてみた。その結果、直立型のほうが匍匐型よりも刈られにくく、生き残る確率が高いことがわかった。

●都会は生き物の進化の最前線

 これらの結果について、深野さんはこう考えている。

「今のような都会の環境が生まれてまだ100年ぐらいだと思いますが、その短い期間にメヒシバは都会と農地のそれぞれの環境に適応するように、二つのタイプに進化してきたと考えられます。競争相手の少ない都会のメヒシバ(匍匐型)は、茎を横に伸ばすことでたくさんの日光を浴びられるので、細い茎ではって育つようになりました。これに対して農地のメヒシバ(直立型)は、競争相手が多く、密集して生えます。横にはったら葉に光が当たらないので、競争相手より早く上に伸びて日光を浴びようとします。そのため、茎を太くして真っすぐ伸びるのです。その結果、これは偶然ですが、耕運機に刈り取られて死ぬ確率が、都会に多い匍匐型より少なくなりました」

 もともとの自然にはなかった都会という環境のもとで、植物、昆虫、鳥などの生態(暮らし)はこれまでとは大きく変わり、急速な進化が起きている可能性がある。それらを調べる研究が、今、世界で盛んに行われるようになってきていると深野さんは言う。

「調べられていないこともまだたくさんあるので、たとえばマンションの高層階や屋上に飛んでくる昆虫の種類を調べるだけでも貴重な資料になり、それが大きな発見につながるかもしれません」

 夏休みの自由研究などで調べてみるのもいいかもしれないね!

(サイエンスライター・上浪春海)

※月刊ジュニアエラ 2021年3月号より

ジュニアエラ 2021年 03 月号 [雑誌]

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