ADHD(注意欠如・多動性障害)、ASD(自閉症スペクトラム症)、LD(学習障害)、ギフテッド……。子どもの発達過程や得意不得意は、一人一人違って当たり前ですが、発達障害やその傾向があるグレーゾーンの子にはなおさら、周囲が特性を理解し、適切な声かけをすることが大切になってきます。「AERA with Kids春号」(朝日新聞出版)では、長年多くの親子の発達支援にかかわってきた臨床発達心理士の吉野加容子さんに、発達に「特性がある子」への声かけのポイントをうかがいました。

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「『みんなと一緒に、同じペースで行動する』ことが求められる学校では、特性がある子は目立ったり注意されたりして心がすり減りがち」と吉野さんは言います。「ほかの子よりもできないことが多い」「集団の中で浮いてしまう」「親や先生によく注意される」といった経験が積み重なることで、自己肯定感が低くなりがちです。学校で人と比べられ傷つく体験が増えると、二次障害を起こす原因にもなります。

「親がよかれと思って厳しくしつけるほど逆効果で、親子でつらくなりますよね……。家では子どもが安心できるよう、小さなことでもこまめにほめて、自己肯定感を高めることを優先させましょう」(吉野さん)

 声かけのポイントは「肯定で始め、肯定で終える」ことだそう。

「子どものできていないことではなく、今、すでにできていることに着目し、ささいなことでも声に出して明るく伝えてみてください。ほめっぱなしで会話を終えるようにすれば、自然と子どもは成長していきます」

 具体的にどのように声かけをすればいいのか、ここでは2ステップに分けてポイントを教えていただきました。

■STEP1 子どもの行動や発言を「肯定」する

ついわが子には厳しい目線を向けてしまいますが、叱るよりほめるを優先! 「できて当たり前」のことでも、頑張りを認めてと吉野さん。

<声かけ例>
朝の支度が中途半端になっているとき
OK
「くつ下が履けたんだね」
「時間割をそろえてあるんだね」
「あとは歯みがきだけだね」
NG
「また水筒入れてない!」
「忘れ物しないでよ」
「もう、さっさと終わらせて」

<声かけのポイント>
「ほめるところが見つからない!」と思ったら、実況中継をするだけでOK。今していることを親が言葉にして聞かせることで「自分はできた!」という認識と記憶が残ります。ささやかなことでも手伝ってくれたら感謝を伝えて。

 

■STEP2 「わかりやすい指示」を子どもに出す

「頑張って」「ちゃんとして」などの漠然とした指示は伝わりづらいもの。選択肢を示したり、具体的に次にやることを指示したりして、「できたらほめる」を繰り返しましょう。

<声かけ例>
部屋を片づけてほしいとき
OK
「本は本棚にしまおうか」
「おもちゃは黄色いカゴに入れよう」
「1人で片づける? お母さんとする?」
NG
「早くきれいにして」
「床にあるもの全部しまってね」
「もう、いつも散らかすんだから」

<声かけのポイント>
特にADHDやLD傾向のある子には、完璧を求めるとかえってかんしゃくが強まる場合も。簡単な目標を2、3ステップに分けて具体的に指示を出しましょう。できたことはすぐにほめて、自己肯定感を引き出してあげてください。

 吉野さん推奨の声かけを続けた結果、ADHDとASDの傾向を併せ持つ子との会話が増えたり、自分から忘れ物に気づくようになったりしたという親からの声も多数あります。

「はじめは、ほめていても声がイライラしたり顔が無表情だったりして、子どもにうまく伝わらないかもしれません。でも少しずつ練習することで、必ず親子関係は変わります」

(取材・文/玉居子泰子)

発売中の「AERA with Kids春号」では、この他にも特性の特徴に合わせた接し方のポイントや、よくあるトラブルの対応方法などを詳しく紹介しています。

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玉居子泰子
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