なお、補習科は1968年に廃止されている。公費で実質的予備校の経営はけしからんという理由だった。

 当時、国立大学附属や私立の中高一貫校よりも、西、戸山、新宿、小石川など「都立名門校」がブランド力を持っており、超優秀な生徒が集まった。教員も優れていた。補習科という日比谷に設置された予備校がバックアップした。日比谷が多くの東京大合格者を出したのにはさまざまな要因がある。

 しかし、日比谷の東大合格者数は1968年、1人差で灘高校に抜かれてしまう。日比谷の田中喜一郎校長(当時)はこう語っている。

「別にショックを受けていないし、残念だとも思わない。まあ、うちは特別に受験教育をすることを避けていますからね。灘のようにはいかんでしょう」(「サンデー毎日」(68年4月7日号)

 相当、灘を意識している。

 67年の学校群制度導入により、日比谷はほかの2校と「学校群」を組み、単独での受験が不可能になる。日比谷に振りわけられなかった受験生は開成や武蔵、国立大学附属、早慶の附属・系列校に進んだ。

 70年代に入って日比谷の東京大合格者数は減少の一途をたどっていく。

 日比谷の学校史にこんな記述がある。

「この制度が、創立以来の本校の歴史と伝統に反するのみならず、受験生の志望を生かせないものであるとして、極力この実施に反対の意向を表明したのであるが、『中学校における入試準備教育の過熱』を緩和するという、都教育委員会の方針に、やむなく従わざるをえなかったものである」(「日比谷高校百年史」79年)

 悔しさが読み取れる。

 そして、約半世紀ぶりに60人以上の合格者を出した2021年。これまで最多の193人だった1964年と共通項がある。東京オリンピック開催である。

 64年、日比谷はこんな歴史を刻んでいる。

「この年の大きい話題は10月の東京オリンピックの開催で、生徒の団体見学の扱いがあり、本校では五五四名の希望生徒が見学した」(同)

 2021年、日比谷の生徒は開催が微妙なオリンピックを見学できるだろうか。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)

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小林哲夫
教育ジャーナリスト 小林哲夫

1995年より『大学ランキング』の編集者。『筑駒の研究』(河出新書)、『学校制服とは何か その歴史と思想』 (朝日新書)、『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー)、『旧制第一中学の面目』(NHK出版新書)、『東大合格高校盛衰史』(光文社新書)、『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)など、教育・社会問題についての著書多数。

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