「ボートから水面まで目の前の近さなので、漕ぐとき、水を切る瞬間が気持ち良いんです。水上を走る爽快感といいますでしょうか。バスケなどの球技と違って、自分の努力が見えやすいのがいいですね。勉強と同じで、自分で取り組んだ分は数字でわかります。また、ボートは1時間、2時間と単調な動きを繰り返します。わたしはそれが好きで、自分に向いていると思っています」

 相当な体力を使い、つらいこともあるだろう。それでも荒川選手は「いつも楽しく漕いでいる」という。

「つらいと思うと練習の質が落ち、楽しいと質が上がります。ボートは2000メートルを通して有酸素の運動です。持久力がいちばん求められる。長い時間漕ぐ練習では心拍数を管理しつつ、適当な強度を保っています」

 満足できる良いレースとはどういうものだろうか。

「外から見て、きれいなフォームで楽しそうに漕いでいるなと見えるときは、漕いでいる本人もそう感じているものです。変なところに力が入っておらず、ものすごく軽い感じでボートが進んで、水上を飛んでいる感覚になれます。そのためには上半身に変な力を入れない。足の力をダイレクトにオールに伝えると、この感覚が得られます。わたしは、この感覚を大事にし、からだ全体をリラックスさせることを意識しています。飛んでいる感覚になれば、良いレースができます」

 そして抱負をこう話してくれた。

「シングルスカルはボート競技のなかでがいちばんタフかもしれません。レースの状況、相手の戦法などを冷静に見極めながら、仕掛けるタイミングを自分で判断する。そこが楽しいところでもあります。わたしはレース中盤に強く、それを得意としています。1000メートルを越えてもスピードは落ちない自信があります。相手に少し先行されても、持久力、スタミナで勝負できます。レースのラストでは、各選手がスパートをかけ、そこがいちばん盛り上がるので、ぜひ、注目してほしい。まずは決勝に残ることを目標にがんばります」

 東京2020大会のボート競技、シングルスカル予選は、7月23日に始まる。

(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)

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小林哲夫
教育ジャーナリスト 小林哲夫

1995年より『大学ランキング』の編集者。『筑駒の研究』(河出新書)、『学校制服とは何か その歴史と思想』 (朝日新書)、『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー)、『旧制第一中学の面目』(NHK出版新書)、『東大合格高校盛衰史』(光文社新書)、『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)など、教育・社会問題についての著書多数。

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