安浪:でも、勉強すべてに主体性を持って取り組むのは難しいからこそ、勉強には詰め込み的な側面も出てくる、ということですよね。
矢萩:はい。使いこなせる知識になるかどうか、身につくかどうか、が大切なはず。であれば主体的に学んだ方が間違いなく身につきやすい。一方で、詰め込んだものは圧倒的なスピードで抜けていきます。
■地球の「半径」がわかっても「直径」がわからない
安浪:ある6年生の子の話なんですけど、理科の一問一答形式の問題集に何回も取り組んでいたんですね。その問題集には地球の半径の距離が出ていたんですけど、別の問題集で地球の直径は?と問われたら分からなくなっちゃった。でも、こういった“知識が学力に繋がっていかない勉強”をしている子どもは多いですね。
矢萩:なるほどね。問題を読んで文脈をしっかり捉えたり、地球の大きさをイメージして、赤道の長さとか、日本の面積とかそういう数字を比べたりして「こんなに大きいのか!」みたいに感じていればそうはならない。数字だけを暗記してしまうとそうなりますね。
安浪:やったものが学力としてどこまで残るのかっていうのは、取り組む姿勢や演習量にもよるけれど、たとえ知識が抜けたとしても、そうやって心を動かすプロセスがあれば、見当外れな答えを選ぶことは減りますよね。
矢萩:実際には、中学受験の段階では難しい場合が多いのも確かです。そもそも発達段階を考えると、多くの小学生には主体的に受験勉強に取り組むこと自体が早すぎるんです。
安浪:親からすれば、「子どもがやりたいって言うからやらせたのに」と言いたくなるでしょうけどね。
矢萩:そういう情報を周囲の大人が投げてますからね。大半が親に「やった方が得だと言われたから」とか、「友達がやると言っていたからやりたい」とかで、小学生本人がちゃんと理由をもって心の底から中学受験をしたいんだ、というケースは稀です。でも、どんなきっかけであれ、せっかくやるなら一部分でも主体的に取り組めるようにしたいですよね。「理科嫌いだけれどこの分野は面白かった」とか、「無理矢理学校見学に連れて行かれたけれど、確かに面白そうなことをやっていた」とか、そういう感覚を見逃さずに背中を押してあげたいですよね。主体性を持たせることは自己肯定感を育むことにも繋がっていきます。
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