現代は言葉を簡単に伝える方法がたくさんありますから、秒で届く言葉に秒で言葉を返さなくてはいけないように錯覚します。でもそうではないと思うんです。
届いた言葉は、相手の心に何らかの影響を与えます。いったん立ち止まって吟味して、言葉を磨いてから送る……それが今まで以上に大切になっているんじゃないかと思います。言葉を磨くって、大人にこそ大切なことだと思います。
子どもの言葉を五七五七七のパックに詰める
――言葉について意識を高めていくために、何かいい方法はありますか?
いろんな手立てがあると思うんですが、私のフィールドである短歌はおすすめです。子育てと短歌は相性がいいんですよ。
子どもって、短歌の種の宝庫です。日常の中で心が揺れたときが短歌を作るチャンスなんですが、その素材が目の前に常にいるわけです。
以前、テレビ番組で「子育て短歌」を募集したら、ものすごくたくさんの短歌が集まりましたよ。
――短歌初心者でも作るコツはありますか。
子育て短歌のいいところは、“刺身で出せる”ところです。
さきほどの「マリオ」の歌だって、息子が言った言葉を生け捕りにして、五七五七七のパックに詰めただけなんですよ(笑)。
恋の歌は、ソースに凝ったりきれいなお皿に載せたりしないと、とても人様に出せるものにはならないんですが、子どもの言葉や子どもに抱く感情は、生のままでも全然大丈夫。
子どもっていろんなことを言うし、やらかすし、腹が立つことがあっても、それを五七五七七のパックに詰めるだけで素敵な思い出になるから不思議です。
――子育て短歌の魅力ってなんですか?
子育ての感動や喜びって、あっという間に更新されてしまうので、そのときの感動はそのときに残しておかないとすぐに忘れてしまいます。子どもが初めて立ったとき、あんなに感動したのに、今はもう息子が立っても座っても何も感じません(笑)。
スマホで手軽に写真が撮れる時代ですが、画像では残せないものが言葉です。
子どもの言葉を親が五七五七七のパックに詰めて残してあげることは、その子の未来への手紙になるのではないでしょうか。
※関連記事<歌人・俵万智が、わが子の「言葉」を育てた方法とは 「1時間ゲームしたかったら1時間本を読む、という約束でした」>に続く
(取材・文/神 素子)