もう一つ、彼女に惹かれた理由は、差別のない心です。当時のヨーロッパにはアジア系の人に対する偏見があって、俺自身、人種差別的な扱いを受けたり、彼女も俺と一緒にいることで「何であの女性はアジア人なんかと一緒にいるんだ?」という目で見られたりしていました。でも妻はそんなこと気にする様子は見せませんでしたね。結婚も周囲からは猛反対されたそうですが、それを押し切って俺のところに来てくれましたし、俺も「何があっても、最後まで彼女を大切しよう」と心を決めることができました。俺にとって妻は、家族以外で初めて自分の本性をさらけ出した特別な女性。60代になった今の妻が、いちばんきれいだと思っています。

夫婦はパートナー 家事でもタッグを組んで
――夫婦の強い絆を感じるエピソードですね。
妻と結婚して思ったのは、夫婦がいい関係を築く上で、言葉は案外重要じゃないということです。妻は子どもたちとは日本語で話していますが、夫婦の会話は基本的に英語。俺の英語は相変わらずつたなくて、そこにところどころ日本語が混じるから、周りの人からは「何をしゃべってるのかわからない」って言われますが、俺たちはしっかり通じ合っています。言葉はカタコトでも、表情や行動を見れば、相手の言いたいことはわかるんですよ。結婚したばかりのころは、ドイツ人と日本人はまったく違うと思っていましたが、今はドイツ人も日本人も結局は同じ人間で、根本的な部分はそんなに変わらないと思っています。
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
夫婦はパートナーであり、仲間です。家事も子育ても、夫婦でタッグを組んでやるのが当然だし、その方が断然スムーズ。多くの人たちに、そのことに気づいてほしいですね。
自分は4年前に腰の手術をして、その後車椅子生活も経験しました。最近、ようやく動けるようになって来たら、「あそこの電気、切れてるから買いにいかなきゃ」とか「ここのゴミをあとで片付けよう」といった気持ちが自然に出て来るんですよ。「何で俺がやらなきゃいけないんだ」と思っていた家事が、いつのまにか自分の生活の一部になるなんて、30年前は想像もしませんでした。共家事を続けていくためには、夫婦ともども健康であることが大前提。これからも妻と助け合いながら、年を重ねていきたいです。

(構成/木下昌子)