「おはようございます」とあいさつをしても素通り。あれ? 声が小さかったかなと思って、もう一度大きな声で「おはようございます!」と言っても、やっぱり返事はないんです。
理不尽な思いはありましたが、どんなに無視されても、いつも大きな声であいさつをして、誠心誠意付き人としての役割を果たしました。

――入門早々、試練が始まっていたのですね。
馬場さんは、たぶん最初は本当に腹を立てていたんだと思うんです。僕がそれでもめげなかったこともあり、途中からは「どこまで頑張れるのか」を試していたと思います。
付き人になって3カ月ほどでデビューが決まり、試合後に馬場さんに「デビューしました。ありがとうございました。」と挨拶に行ったら、「ホテルの上で待ってるからな」と言われました。馬場さんと初めて食事をして「よく頑張ったな」とニコッと笑ってくれました。それから毎日のように、食事をごちそうしてくれて、「どんどん注文しろよ」って。ホントに食べきれないくらいの量でした。
馬場さんは、人の何倍も厳しく、そして人の何倍も優しい。そんな人でした。
「諦めない」ではなく「諦めたくない」と思えるくらい好きなこと
――娘さんの「諦めない気持ち」を育むために意識されていることはありますか?
諦めない気持ちというのは、本人が本当に熱い気持ちで臨んでいることが前提になると思います。「諦めない」というよりは「諦めたくない」ほど好きな気持ちがなければ、努力を続けられませんし、心から真剣に取り組むことはできません。
そして、どんなに真剣に取り組んでも、失敗してしまったり、(プロレスでは)負けてしまうこともあります。「こんなに努力したのに!」と思うかもしれませんが、周りはもっと努力しているかもしれないし、もっと真剣に取り組んでいるかもしれません。
そこで諦めずに、さらに努力して頑張れるかどうかは、どれだけ好きか、熱い気持ちを持っているかだと思います。成功と失敗、勝ちと負けを繰り返しながら人は成長していくもの。
だから娘にも、まずは好きなコト、熱くなれるモノを見つけてほしい。それが後悔のない人生を歩むことにもつながると思っています。

(取材・文/山下隆)