安浪:ああ、わかります。それに、なんだかんだいって、受験することを前提に考えているのが興味深いですよね。

塾の価値観に染まらない
矢萩:漠然とでも、「やっておいたほうが安心」「なにもしないよりマシ」みたいな、“お守り”的な意味合いもあるのかもしれない。それに中学受験も「ゴリゴリやる派」と「探究的に学びたい派」で二極化しているように見えがちだけど、実際はそんなに単純じゃなくて、グラデーションがあるはずなんですよね。だからこそ、塾に全部委ねるんじゃなくて、「塾を活用する」という視点が大事だと思うんです。たとえ大手塾に通っていたとしても、親が「ここはやらなくていい」「ここはやろう」とディレクションしていく姿勢が必要なんです。
安浪:先ほどお話しした、塾を理科と社会だけにしたご家庭も、最初にこの提案をしたら、「そんなやり方もあるんですね」ってすごく驚かれたんです。他にも今までに、得意な国語だけオンライン授業にする、季節講習と平常がダブルの塾は季節講習を間引くなど、ご家庭の状況に合わせていろいろなやり方を提案し、実際そのようにやることで結果的に、学習量も気持ちもかなりラクになった。つまり、本当に必要な部分を見極めて、やることを絞ればいいんです。塾に全部丸投げすればそりゃ常軌を逸した量になります。でも、親がちゃんと関わって、先ほど矢萩さんがおっしゃったような塾を“活用する”という視点を持てば、受験の形はいくらでも調整できるんですよね。
矢萩:全部お任せで突っ走ると、結局は塾の価値観に染まってしまって、子どもの個性なんて発揮できない。それって、学校選びでも同じことが言えると思います。委ねるのではなく、関わっていくこと。それが、子どもの個性を生かす本当のスタートなんじゃないでしょうか。だから少しでも「個性を生かしたい」と思うなら、受験は絶対にカスタマイズしたほうがいい。画一的な枠にポンと子どもを当てはめておいて、「個性を生かしたい」って、それはもう矛盾していると思います。
(構成/教育エディター・江口祐子)