「詰め込み」「偏差値」というイメージが強い中学受験。「受験のための勉強は子どもの将来に役に立つの?」「難易度より、子どもを伸ばしてくれる学校を選びたい」といった悩みを抱えている親御さんも増えています。思い切って「偏差値」というものさしから一度離れて、中学受験を考えてみては――。こう提案するのは、探究学習の第一人者である矢萩邦彦さんと、「きょうこ先生」としておなじみのプロ家庭教師・安浪京子さん。今回は、「きょうだいの比較」がテーマです。

MENU 偏差値なんて子どもの一部分でしかない 知らず知らずのうちにプレッシャーをかけている? 違う性質の子が生まれてくるのは自然なこと

偏差値なんて子どもの一部分でしかない

安浪:おそらくですが、親御さんはお兄ちゃんに対して「こんな難しい問題よく解けたね」とか「今回のテストはすごかったね」といった声かけをしていたと思うんです。同じように、弟さんの「いいところ」も見つけて、ちゃんと口に出して褒めてあげるだけでいいと思います。それは勉強だけでなく、性格面でもいいし、お手伝いなど日常のことでもかまいません。どうしても勉強面にフォーカスしてしまいがちですが、それ以外にも子どもにはそれぞれ良いところがある。それを自然に伝えてあげるだけで十分だと思います。

矢萩:同じ評価軸で比べようとするから難しく感じてしまうんですよね。そもそも子どもを評価すること自体、あまりいいことだとは思いません。評価するにしても、人によって評価の軸を変えるのは本来当たり前のことなのに、受験になるとどうしても「偏差値」というものさしで揃えようとしてしまう。

安浪:偏差値なんて、子どもの一部分でしかありませんよね。

矢萩:うちの塾にも似たようなご家庭がありました。お兄ちゃんが最難関校に通っていて、弟は今年中堅の私立校に進学したんです。でも、お母さんの葛藤がものすごくて。弟さん自身は進学先をとても気に入っていたので、本来なら何の問題もないはずなんですが、お母さんが「つい比べてしまって、不安になってしまう」と最後まで苦しんでいました。頭では「こんなことで悩むべきではない」と分かっていても、感情がついていかない。だから僕も、「弟さんは発想力もあるし性格もいい。本人がその学校に行きたいと言っているんだから大丈夫ですよ」と定期的に声をかけるようにしていました。せっかく本人はポジティブに、彼なりに頑張っているのに、何かの拍子で爆発してしまうことは避けたかった。お兄ちゃんと比べてしまう自分がいることを、お母さん自身がメタ認知できている分、よけいに苦しかったのだと思います。

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安浪京子
中学受験専門カウンセラー/算数教育家 安浪京子

やすなみ・きょうこ/「きょうこ先生」として親しまれている中学受験専門カウンセラー、算数教育家。佐藤亮子さんとの共著『親がやるべき受験サポート』(朝日新聞出版)が好評。最新刊は佐藤亮子さんとの共著『中学受験の意義 私たちはこう考えた』(朝日新聞出版)。オンラインサイト「中学受験カフェ」主宰。

矢萩邦彦
中学受験塾塾長 矢萩邦彦

やはぎ・くにひこ/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

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