NOを言わないAIに「心理的安全」が得られる

 なぜ、これまで学校での学びに消極的だった彼が、自分を主人公にした物語まで書き上げられたのでしょうか? それは、「AIとの対話には”心理的安全”があるから」だと考えられます。

 AIは、絶対に”NO”を言いません。小説を作るヒントとしてどんな質問をしてもバカにしたりしないし、さまざまな引き出しを与えてくれます。

 一方で、漠然とした質問だと答えが導かれないこともあるので、「プロンプト」という的確な質問を投げかけるよう、よく考え納得できる回答が出るまで粘り強く繰り返さなければなりません。

 こうしたAIとの言葉のキャッチボールや試行錯誤が、生徒たちの対話力につながっているのです。

 また、この生徒はAIを使って「自分を理解するための座右の銘」や「自分の取扱説明書」を作るようになりました。さらに、「自分を表現することが楽しい」「相手の反応が面白い」と感じるようになり、授業中の発言も増え、冗談を交えて教室の雰囲気を作るまでに成長しました。 同じ支援教室に通う友人たちともよく話すようになり、自身の感情を語れるまでに成長してくれました。

 AIを使った授業は他の生徒にも効果的で、AIが提示する質問やアイディアに刺激を受け、失敗してもいいから、新しいことに挑戦してみたい、と積極的に学ぼうとする生徒が増えました。

 AIの活用は、ただ楽しいだけではなく「自分を知る力」「自分で決める力」を育てるツールでもあります。「なりたい自分になる」を目標に、夢を形にするステップとして、AIを使ってストーリーを作ることで、生徒が自分自身を見つめ、自己理解を深めていく。

 そんな、過程を間近でみられたことは、教員としてとても大きな喜びになっています。

(構成/玉居子泰子)

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中澤幸彦
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