受験日初日の試験は、学校に入ることができずに、結局受験できませんでした。「大丈夫、大丈夫! 明日も受験できるんだから」と励まし続けたお母さんの本音は、合否はどうでもよくて、試験を受けられたということがKくんの自信になるのではないかと思って必死だったと言います。

 翌日、試験会場の学校の前で、また足を止めてしまったKくん。絶望的な気持ちを隠しながらも、「あそこのベンチでちょっと休もうか」と声をかけ、不安な気持ちから救い出したい一心で、携帯に撮っておいたウサギの動画を見せたのだそう。Kくんは、長い間じっとその動画を見つめた後に、「試験に行くよ」と立ち上がったのでした。

 そしてその夜、合格をもらったKくんは小さな自信をひとつ得て、中学生になりました。

綱を渡るような毎日。不安に染まった小さな後ろ姿は…

 合格をもらって安堵はしたものの、今度は中学校に通えるかどうか、の心配が襲います。不安と戦うKくんに、お母さんは通学に毎日同行し、見守りました。最初は学校の入り口まで、少し経ったら、学校のある駅まで、途中の乗り換え口まで、自宅近くの駅までというふうに少しずつ一人で通える距離が長くなっていきました。家から送り出すことができたのは、中学生活が終わる頃。その間、先生たちもとてもよくサポートしてくれたそうです。

 お母さんは最初こそ、大きな制服を着た小さな背中を見つめながら、「どうか一日無事に学校生活を送れますように」と祈ったそうですが、途中からは、いずれ「もう大丈夫、一人でいけるよ」と本人発信する日が来るだろうと長い目で見守ったといいます。

 そして今、「長かったなぁ」と思うと同時に「私と息子は全く別な人間なんだ」と実感しているそう。「自分にはなんとも思わないことでも、息子は不安に思ったりもするし、また、自分は嫌だなと思うことでも、息子は受け入れることができたりもする。息子には息子の感性と歩みがあって、それを全うできるように見守るのが親の役目なんですね」と、経験からの貴重な学びを教えてくれました。

(取材・文/鶴島よしみ)

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【体験記マンガ】「学校に行くのが当たり前」と思っていた日常が一変…小6の2学期で不登校になった息子の中学受験
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