井本 目の前に置かれた問いに対して子どもたちはああでもない、こうでもないってやります。それを見て、「あぁ、そういうことやってんのか」とか「なるほど、そういう考え方ね」とか「こういうふうに間違えるのね」とか「そっか、むしろこっちのほうが楽しいんだ」とか、そこをいもいもでは拾うんです。

 たぶん子どもって、結果を見られるよりも自分が踏んでるプロセスを見られると安心するんです。それを褒めたりしないでいい。彼らがやっていることをきちんと見てとるだけで九割方完了です。それだけで、子どもはどんどん自分を発揮していきます。それをやる気っていうのかどうかはわかりませんが。

 でも、その子なりのプロセスをちゃんと見ててあげることと、頑張りを評価するってことはぜんぜん違います。

おおた そこをもうちょっと詳しく。

頑張りはいっさい評価しない

井本 栄光学園の授業だと、僕のところにぜんぶ解答が集まるじゃないですか。そこで僕が見るのは、置かれた問いに対して生徒たちがどう試行錯誤していくのか、どう興味をもっていくのかということ。

 だけど、頑張り評価ってポーズ評価なんですよ。表向き、見せかけだけという意味です。「自学ノートが5冊目なんて頑張ったね」とか「この子は提出物をしっかり出すから赤点にはしない」とか、その子がどう学んでるかではなくて、時間をかけてやるとか、量をやったとか、そこを評価しているだけ。子どもは評価されたいので、頑張ることが評価のためのポーズになっちゃうんですよ。

 僕は頑張りはいっさい評価しません。頑張って書いた答案レポートでも、論理的破綻があったら0点をつけます。でも子どもは点数なんてぜんぜん気にしません。その0点の答案を見た僕が、「こうやって間違えるのか! これ使える!」って心を動かされて、教材にしているのをわかってるから。点数よりもそのことに価値を見出すから。

おおた 家庭だと「結果については怒らない。やる気を出さないことに怒ってるの!」って言いがちです。でもたいていの場合、「もっと長い時間勉強してほしい。もっと難しい問題をたくさん解いてほしい」と願っているだけです。

井本 そういう親御さんたちは、子どもが踏んでいる具体的なプロセスには興味がないし、わからない。やる気スイッチが入ったっていうのも単に勉強時間やこなした量を評価する頑張り評価でしかないことが多いから、言えば言うほどポーズ促進になりやすいんです。

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子どもが自ら考えだす 引き算の子育て

宮本 哲也,井本 陽久,おおたとしまさ

子どもが自ら考えだす 引き算の子育て
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おおたとしまさ
教育ジャーナリスト おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。リクルートでの雑誌編集を経て独立。数々の育児誌・教育誌の企画・編集に携わる。現在は、幼児教育から中学受験、思春期教育、ジェンダー教育、教育虐待、不登校、教育格差問題まで多岐にわたるテーマで現場取材および執筆活動を行っている。書籍のみならず、新聞から女性誌、各種ウェブメディアまでさまざまなメディアを舞台に、取材成果を発表し、テレビ・ラジオなどへの出演や講演も多数。中高教員免許をもち、小学校教員や心理カウンセラーとしての経験もある。著書は『いま、ここで輝く。』(エッセンシャル出版)、『学校に染まるな!』(ちくまプリマー新書)など80冊以上。

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