古代中国の思想家・孔子は、『論語』でこう言っています。

「祝鮀(しゅくだ)の佞有(ねいあ)りて、而(しか)も宋朝の美有らずば、難(かた)いかな、今の世に免(まぬが)るること」(雍也第六)

 直訳すると「宋朝ほどの美貌だけを持っていても、祝鮀のような雄弁の才がないと、今の世の中の恐ろしさを免れ、生き抜くのは難しい」という意味です。

 祝鮀は、衛の君主・霊公に仕えた人物で、時代を読む才知にあふれ、雄弁な名臣でした。宋朝とは、宋の公子で、色男で有名な人物。孔子は「才知がなくて、宋朝のように容姿の美しさを売り物にしているかぎり、世の中の危難を乗り越えることはできない」と説いたのです。

 研究者によって時代の見方はさまざま異なりますが、孔子が活躍した紀元前500年前ごろは、「古代」と呼ばれる中国でも「春秋時代」から「戦国時代」へという時代の転換点に当たります。

 そのころ、周という王朝に変化が起こっていました。はっきり言えば、王朝のトップに君臨する王の「権威の失墜」です。王の地位を脅かす原因は、民衆の身近な生活の変化や技術改革にありました。周王朝の王が定めた古代の「封建」という政治制度は、血縁をもとにして成り立つものでしたが、すでに「血縁」は薄くなり、血のつながりがない「他人」となった各地の覇者が武力によって、近隣の諸国を奪い合う時代になっていたのです。

 こうした「武力」は、技術の革新によってもたらされたものでした。青銅器の時代から鉄の時代へと、転換しようとしていたのです。

 こうした政治制度の変化と技術の革新は、現代の社会情勢にもピッタリと当てはまります。中東、ウクライナなどで起こる紛争や戦争、そしてわたしたちの生活のなかに浸透してきているAIなどの技術革新です。

 さて、相談者さんの6歳の息子のスーパーのセルフレジ使用に話を戻します。

 スーパーのセルフレジは、コロナ禍での「非接触」に対応するために、また、働き手不足を解消するために、時代の要請に応えるように導入されたものです。今、パソコンや携帯が使えないと仕事も人間関係もうまく構築・維持ができないのと同じように、スーパーのセルフレジが使えない人は、生きていくこともできない時代がやってきたのです。

次のページへ「妻にやめさせる」と考えるのではなく
1 2 3