どうして不知火は出現しなくなったのだろう?  疑問が募る中で、班員たちは室内での実験を思いついた。蜃気楼は、大気中の温度差によって空気の密度に違いが生まれ、そこを通る光が屈折することで起こる現象である。

 八代海は、陸地と陸地の間にはさまれた内海だ。干潮時には広大な干潟が現れる。そんな干潟の上で、温度の違う海面付近と陸上の空気が風によって混じり合うことで、不知火のような特殊な現象が起こるのではないか。そう仮説を立て、八代海と同じような条件を実験装置に置き換え、不知火の再現を試みることにした。

不知火が現れる環境、教室でどう再現した?

 条件を再現するために、温度を自由に設定でき、全体を均等に加熱できるシリコンラバーヒーターを4mの長さに並べて加熱し、海面上の温度が陸地より高い状況を再現した。ヒーターを置いていないガラスの部分は陸だ。

 不知火が現れる海域には水温の低い川が流れ込んでいるので、その部分は隙間を空けて再現した。不知火が出現するときは、八代海の内部に向かって微風が吹く。この風は扇風機で再現した。そして、観測する位置にカメラをセットし、向かい側でスマートフォンのライトを照らして、実験装置の上を通った光がどう変化するかを観測した。

 実験は失敗と試行錯誤を繰り返したが、努力が実って、側方蜃気楼や、その発展形と考えられる不知火らしき現象を出現させることができた。

1)ヒーターをつける前
2)ヒーターをつけると、光が横に分かれた(側方蜃気楼?)
3)微風を流すと、光が横につながったり、伸縮したりした(不知火に似ている!)
4)風を強くすると、光が上下に分かれた(下位蜃気楼?)

漁業組合の協力を得て、実際の海での再現に挑戦!


 室内の実験では再現できたのに、なぜここ30年以上、海では不知火が見えないのだろう?  班員たちは、地元の漁師の人たちと話をしているうちに、不知火の光源は漁火だったのではないかと考えるようになった。漁火は現在の街明かりと違って、海面近くの低い位置にある。その条件でコンピューターシミュレーションを行ってみると、光源が海面に近いほど光が曲がり、不知火が見られる可能性があることがわかった。

研究内容を紹介してくれた(左から)小林瑞さん(3年)、米田直人さん(2年)、徳丸亮汰さん(3年)。小林さんは、この研究ではコンピューターシミュレーションを担当。米田さんは、先輩の後を継いで、なぜ不知火が八代海でしか見られないのか、なぜ八朔の時期なのかを明らかにしていきたいと考えている。徳丸さんは、この研究でリーダーの役割を担った
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