ただ私は、この「人間は弱かったから直立二足歩行になった」という説が大好きです。直立二足歩行のおかげで人類はいろいろなことができるようになりましたが、それは強かったから獲得できたわけではなく、弱かったからと考えるとおもしろいですよね。生きものというのは、調べれば調べるほどへんてこだと思います。

春山 へんてこ(笑)。

中村 生きものほど、へんてこなものはないと思いますよ。先ほども申し上げましたように、生きものは矛盾だらけです。そもそも、全部違って全部同じというのですから。生きものを調べると、そういう変なことばかり出てきますね。

 今、「地球の危機だ」とか「生きものが消えるかもしれない」などと言われていますが、生きものは人間が何かしたくらいのことでは消えないでしょう。この地球上で40億年続いてきたシステムがあるのですから、生きものは地球がなくなるまで続いていくと思います。

 では、生きものがどうしてそんなに続いたのかと言えば、へんてこだったからです。繰り返しますが、合理的に効率よくやろうとしていたら、生きものはとうの昔に消えていたと思います。それから、一つの価値基準で競争させて、いいものだけを残そうとしていたら、やはり消えていたでしょう。矛盾を組み込んで、「何でもあり」でやってきたからこそ、生きものは続いてきた。これが生きものの本質だと思います。

 そこでは、弱さも必要です。弱いからこそ、生きものが続いている。先ほどの仮説に従うならば、人間はたまたまその弱さゆえに二足歩行をはじめ、脳が大きくなり、いろいろなことができるようになりました。他の生きものたちにも、それぞれの弱さを生かして生きているものがいます。自分だけでは生きていけないなら、他の生きものに寄生するなど、やり方はいろいろあります。弱さは人間だけのものではなく、生きものの特徴なのです。

「人間が二足歩行という特殊なことをやったのは、どうも弱さと関係しているらしい」と考えると、楽しいですよね。弱いといろいろなことを考えて工夫しなければなりません。だからこそ新しいことをする可能性が出てくるわけで、何か人の生き方と通じる部分がありますね。

春山 弱さが新しさを生む可能性につながっている。そう考えると希望が持てますし、わくわくします。人間の弱さを起点に、社会システムを見直すことができると、もっと生きやすい世の中になるのかなという気がします。

中村 人間は弱かったから、思いやりを持つ力や想像力が発達し、社会をつくっていった。人間のように大きな社会をつくっている動物は他にいないけれど、その源は人間の弱さにあったと考えると、生きものとしての本来の生き方が見えてくるように思います。

こどもを野に放て! AI時代に活きる知性の育て方

養老 孟司,中村 桂子,池澤 夏樹,春山 慶彦

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春山 慶彦
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