その頃、東京大学大学院の渡邉英徳教授が、3D空間で情報を可視化する「デジタルアーカイブズ・シリーズ」を制作していると知り、「これは私がマイクラでやっていることを、もっと大規模でリアルにやっている“上位互換”だ!」と感動していたんです。渡邉先生といえば、モノクロの写真にAIで色付けをしていることでも有名な方です。そんな渡邉先生にたまたまお会いする機会に恵まれ、なんと先生も私のことを知ってくれていて、意気投合し、そこから先生の研究室でマイクラの教育利用、平和利用の研究をすることになったんです。

――渡邉先生の「デジタルアーカイブズ」は、実際の写真や映像を使っているので臨場感や没入感にあふれていますね。具体的にはどんな研究をされているのでしょうか?

 2023年の夏、広島県で『Minecraftで広島の歴史を学ぼう』というワークショップをしました。原爆にまつわる展示や資料、模型を見て学ぶ調べ学習から始めて、原爆が落ちる前の広島の街並みをマイクラの世界で再現していくプログラムです

 私の祖父は軍人でしたし、妻は広島出身なので、戦争の話は聞いて知ってはいました。でも、原爆の惨禍を記録している資料を直視するのは辛すぎて目を背けたくなるんです。そこで、みんなで意見を出し合って、平和で幸せだった頃の広島の街並みを、マイクラで再現することにしました。その過程で当時の人々の暮らしに思いを寄せて、78年前にそこで生きていた人と同じ気持ちになれたら、戦争の恐ろしさや悲しみを自分ごととして学んでくれるだろうと考えたんですね

――マイクラを平和教育に活用する、今までにない試みですね。

 原爆で壊された後の惨状を知ることももちろん大事です。けれども、焼け野原になる前の平和だった街をマイクラで再現することで、「こんなに素晴らしい街並みとそこに暮らす人たちの人生を原爆で破壊しちゃいけない。戦争したらいけない」と子どもたちに知ってもらうことも、平和教育の1つだと思うのです。今年の夏は、長崎でも同様の取り組みを行う予定です。このように毎年、マイクラで戦争を学ぶ動きが出てきたらいいなと思っています。

2023年8月におこなわれたワークショップ「教育版マインクラフトで広島の歴史を学ぼう」。マイクラを使って原爆投下前の広島ワールドを作成した(画像提供:渡邉英徳研究室)
教育版Minecraftを使い、ワールドの中で建築を行う(画像提供:渡邉英徳研究室)
原爆投下後の被害を伝える渡邉教授(画像提供:渡邉英徳研究室)
学んだことをマイクラで表現する(画像提供:渡邉英徳研究室)
最終発表をする参加者たち(画像提供:渡邉英徳研究室)
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