人間の食料や残飯を食べたことのあるクマは、その味を覚えて人を襲うようになってしまうと聞く。このクマも例外ではないだろう。当時、Twitterの投稿に、山の経験の浅い人が食料管理を怠ったために被害にあったという憶測が飛び交い、不本意に思っていた。ヒグマのいる北海道は別として、日本では、登山者は食料をテント内で保管するのが主流だ。原因は直近の食料管理の問題ではなく、それ以前に作られていたはずだ。
上高地は登山者だけでなく、日帰りの観光客も多く訪れる場所。身近な公園と同じ感覚で、残飯の入った弁当ガラをゴミ箱に捨てる人はめずらしくないだろう。そうしたゴミをクマが食べていた可能性は高い。夜、キャンプ場のゴミ箱をクマが漁っている様子もキャンプ場のビデオカメラに収められている。
私を襲ったクマは、後日、麻酔銃を受け、遺体で発見された。このクマも被害者だ。人間の一人として申し訳なく思う。
アメリカ在住で、大陸分水嶺の山々を縦走したことのある知人によると、縦走時には、筒状の食料保管コンテナを担ぎ上げ、テントと十分距離を置いた場所に置いて食料を保管するのが常識だそうだ。日本の常識とは異なるが、野生動物の尊厳を保つためにはそこまでの覚悟が必要なのかもしれない。
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