自然遺産がさらされている「二つの危機」

 白神山地と屋久島の登録から30年を迎えた昨年、国内の世界自然遺産5地域の関係自治体の首長らが屋久島町に集まり、5地域会議の発足を宣言した。今年1月には第2回が京都市で開かれた。
 日本の世界自然遺産は、知床(北海道)、小笠原諸島(東京都)、奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島(鹿児島県、沖縄県)を加えて現在5地域。自然遺産はこれ以上増えないとみられている。

 これまで地域ごとに自然保護や地域振興に取り組んできたものの、日本の自然遺産全体としての価値を国内外にアピールする機会や、共通する地域課題に統一的に取り組む機会はほとんどなかった。関係自治体の横の連携も不十分だった。
 関係者は「それぞれがおもしろい取り組みをしているが、遺産を生かし切れていない地域や元気のない地域もある。まとまることでより存在感を示せる」と期待する。
 日本を含め世界の自然遺産は、地球温暖化と生物多様性の喪失という二つの危機にさらされている。世界を代表する自然を守れなければ、いずれは私たちの身の回りの自然も失われ、生活環境も悪化する。世界遺産を担当する国連教育科学文化機関(UNESCO)は、温暖化が遺産に与える影響について指摘、早急な保護や対策の必要性を訴えている。

知床(北海道、2005年登録)/ヒグマなど野生動物とのあつれき回避や植生保護のために、観光客に対するレクチャーやガイドツアーの義務づけなどを実施。マイカー規制やシャトルバスの運行にも取り組む
小笠原諸島(東京都、2011年登録)/固有種が多い島ではペットの野生化による影響が甚大。村は、ペットの登録、マイクロチップ、去勢手術の推奨などを盛り込んだ条例を制定、関係団体とともに取り組んでいる
奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島(鹿児島県・沖縄県、2021年登録)/アマミノクロウサギ、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコなど希少種の交通事故死(ロードキル)が問題になっており、道路への侵入防止柵の設置などの対策を強化している 

(解説/朝日新聞編集委員・石井徹)

ジュニアエラ 2024年4月号

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石井徹
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