通常は膀胱に尿がたまると、膀胱内の圧力が上がり、その信号が脊髄(せきずい)を通って脳の前頭葉に送られ、尿意を感じて睡眠から覚醒します。この回路は成長とともに完成していくので、そのスピードには当然個人差があるものです。夜尿症の子どもの多くは、そのスピードがゆっくりで未熟なだけともいえます。
「この回路が敏感になりすぎた状態が、高齢者の夜間頻尿です。布団を濡らすかどうかの違いだけで、夜間のおしっこで困る年齢層は実は幅広いのです」(西﨑医師)
両親ともに夜尿症があると発症する確率は10倍以上に
夜尿症は遺伝的な原因もあるといわれ、両親のいずれかに夜尿症があった場合、その子どもはそうではない子どもに比べて5~7倍、両親ともに夜尿症がある場合、約11倍夜尿症になりやすいという報告があります。
「夜尿症に関連する遺伝子が見つかっていますが、発症を決定づけるものではありません。ただ、夜尿症を体質的に親から受け継ぐことはあると考えられます」(西﨑医師)
二次性の場合は、震災やいじめ、両親の離婚、弟や妹の誕生、ペットとの死別など心因的なストレスがきっかけとなり、発症することがあります。
2004年の新潟県中越地震後に、激震地にある小児科を調査した研究では、震災後の身体的症状として、夜尿症が最も頻度が高かったという結果が出ています。心理的なストレスによって頭痛や腹痛など身体的な症状を訴える子どもがいますが、夜尿症になる子も少なくないのです。
「患者さんのなかに、ちょうど水泳教室でプールにいるときに東日本大震災が起きて、その日の夜からおねしょをするようになった子がいました。水面が大きく波打って、おぼれかけたのが怖かったようで、夢にも出てくると。こうした劇的な体験ではなくても、学校での友人とのトラブル、受験のために塾に行き始めたことなど、大人からみると些細(ささい)なことがきっかけになることもあります」(西﨑医師)
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