発達障害やグレーゾーンの子どもを育てる親にとって、大切なことは何でしょうか? 【前編】の〈子どもの発達障害は、親からどのくらい遺伝する? 小児科医が親に伝えたい「最適な環境」のつくりかた〉では、発達障害の遺伝的素因が50~60%あるといわれることや、それを正しく理解して、プラスの方向に活かすことの大切さについてお伝えしました。【後編】では、子どもの発達障害における「早期診断、早期治療」について、小児科医の高橋孝雄氏が警鐘を鳴らします。黒坂真由子さんの著書『発達障害大全 「脳の個性」について知りたいことすべて』(日経BP社)から一部抜粋・再編集してご紹介します。

MENU 「自分のせいだ」と思いこむお母さんは間違っている 子どもにとって「最悪の虐待」とは何か? 親が先回りしすぎるのは、子どもに失礼

「自分のせいだ」と思いこむお母さんは間違っている

高橋孝雄氏(以下高橋氏):発達障害(*1)は遺伝的素因が強いからこそ、いいこともあるんですよ。

ーーえ、そうなんですか?

高橋氏:ええ。以前、ASD(*2)の疑いがあるお子さんを連れて、ご夫婦そろって診察に来られた方がいたんです。お母さんは、お子さんに何が起こっているか分からなくて、とにかく心配しているんですが、お父さんはお子さんの話に何度もうなずいているんです。

 そこで、「お父さんには、お子さんの気持ちが分かるのではありませんか?」と聞いたら、「よく分かります」って。お子さんが今苦しんでいることは、お父さんもこれまでに経験して乗り越えてきた、あるいは今も体験していることだったんですね。ですから、「お父さんは君のこと、よく分かってくれるんじゃないの?」と、お子さんに聞いたら、「うん」と言っていました。お母さんは心配はしてくれても、本当の意味では分かってはくれていなかったのだと言えます。

ーーああ、それはあるかもしれません。発達障害のお子さんを持つお母さんたちと話していると、「パパは『俺もそうだったから』と、無関心で困る」という愚痴を耳にします。

高橋氏:その旦那さん、考えようによっては素晴らしいんですよ。

ーーえ、どうしてですか?

高橋氏:発達障害を持つお子さんの子育ては大変ですから、ご両親の意見が分かれて、ちょっとした対立構造になることはよくあります。当然です。

 1つのパターンとして、お母さんが「私のせいだ」と思い込むことがあります。子どもに起こった全ての悪いことは、母である自分の責任だと。男性は、そういうふうにはあまり考えません。父性ではそこまでなかなかいかないのです。「誰のせい」ということより、「何がいけないのだろう?」と客観的に理詰めで考える。それはそれで正しいんです。「自分のせいだ」と思い込む、お母さんのほうが間違っているんですよ。

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黒坂真由子
黒坂真由子

編集者・ライター。埼玉県川越市生まれ。中央大学を卒業後、東京学参、中経出版、IBCパブリッシングをへて、フリーランスに。ビジネス、子育て、語学などの書籍を手掛ける傍ら、教育系の記事を執筆。絵本作家せなけいこ氏の編集担当も務める。

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