発達障害やグレーゾーンの子どもを育てる親にとって、大切なことは何でしょうか? 子どもの発達障害にくわしい小児科医の高橋孝雄氏は、「本人を変えることではなく、環境を整えること」が重要だといいます。また、「早期診断、早期治療」の原則も、子どもの発達障害においては、逆効果になることもあるそうです。さまざまな悩みや葛藤を抱える親に対する、小児科医の処方箋とは? 黒坂真由子さんの著書『発達障害大全 「脳の個性」について知りたいことすべて』(日経BP社)から一部抜粋してご紹介します。【後編】〈子どもの発達障害の「早期診断、早期治療」に警鐘 小児科医が考える「最悪の虐待」とは?〉に続く

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本人を変えるではなく「環境を整える」

ーー親としては、どんなふうに子育てをしていけばよいのでしょうか? 発達障害(*1)があると、本人もそうですが、親も困ることが多いですよね。

高橋孝雄氏(以下、高橋氏):一言で言えば、発達障害そのものを治そうとはしないことです。つまり、「本人を変える」のではなく「環境を整える」。発達障害の子がこれから歩んでいく道筋には多くの困難があります。それらに備えるということです。自閉症(ASD*2)や高度なADHD(*3)の子どもの人生は、ほかのみんなが舗装されている広い道を歩いていくときに、林道に入っていくようなものです。となれば、みんなと同じピカピカの革靴では、歩いていくのが難しい。代わりにスニーカーや登山靴を与えたほうがいいわけです。そうすれば、林道でけがをすることなく安心して歩くことができます。発達障害の子どもに親がしてあげられることは、険しい道を少しでも安全に、できれば楽しんで歩いていけるように環境を整えることなんです。

ーーその感覚は分かる気がします。学習障害(LD*4)がある私の息子も、4年生からタブレットでノートをとるのが許可されて、すごく勉強が楽になったようです。それまでは鉛筆でノートをとっていましたが、文字を書くのが極端に苦手なため、そこに意識を持っていかれて、授業の内容を聞く余裕がありませんでした。

高橋氏:そうですよね。だから文部科学省も学校に、学習障害の子どもへの配慮を求めています。例えば、試験を受けるときは別室で、時間制限をかけない、とかね。

 なぜこのように、本人ではなく環境を変える必要があるのかというと、本人を変えることが難しいからです。遺伝の支配を受ける素質というものは誰にでもあって、自分ではどうにもならない側面がある。ですから自分を変えようと無理するより、自分にとって自然で心地いい日常を過ごして、自分を生かせるような道を選ぶほうがいい。これは発達障害に限ったことではありません。人の根本的な生き方や性格、素質というのは、多くの場合、思い通りには変わらないし、おそらく変えようとしないほうがいいと思うんです。念のために申し添えれば、これは「諦める」とは大きく異なる考え方です。

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黒坂真由子
黒坂真由子

編集者・ライター。埼玉県川越市生まれ。中央大学を卒業後、東京学参、中経出版、IBCパブリッシングをへて、フリーランスに。ビジネス、子育て、語学などの書籍を手掛ける傍ら、教育系の記事を執筆。絵本作家せなけいこ氏の編集担当も務める。

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