「脳の個性」も「優しさ」も遺伝する

ーー「遺伝の支配を受ける素質がある」とおっしゃいましたが、やはり発達障害も遺伝するのでしょうか?

高橋氏:遺伝の話というのは、特に才能や資質といった脳の働きと関わってくると、タブー視される傾向があります。でも僕は医師として、遺伝の話をあえてします。そのたびに「遺伝で決めつけるなんて差別だ」と批判されることもありますが、遺伝の話題を含めて、事実をしっかり把握しておくことは、親御さんにとってもお子さんにとっても大切なことです。今回もしっかり話しておきましょう。

 ADHDもASDも、遺伝的素因は50~60%といわれています。ただ、これは発達障害だけの話というわけではなく、身長だって、アレルギー体質だってそうです。遺伝的素因が強い病気はほかにもあって、糖尿病とかがんとか、あと痛風もそうです。みなさん、「うちはがん家系だから気を付けなきゃ」と平気で言いますよね?

ーーあ、言いますね。

高橋氏:ところが、それが脳の話になるとタブー視されてしまう。ADHDやASDだけでなく、国語や算数の得意不得意やIQ(*5)、「物事の考え方」なども遺伝的素因が関わっています。例えば、人助けをする傾向といったことも、遺伝的素因が関係する可能性が指摘されています。

ーー能力だけではなく、優しさも、ですか。顔が親に似るように、脳も全体的に似てくるということですね。

高橋氏:そうは言っても、もちろん全く同じになることなどあり得ません。遺伝的素因といっても、「単一遺伝子」ではなく、複数の遺伝子が関与する「多因子遺伝」によるものですから。例えば身長がそうです。子どもの身長は両親の身長からある程度、推測可能ですが、それでも「±8~9cm」の振れ幅があります。もし身長が単一遺伝子、つまリ1個の遺伝子で決まるものだとしたら、日本人の身長は全員一緒かせいぜい数パターンしかない、まるで血液型のような話になってしまいます。そうならないのは、身長が多因子遺伝によって決まるからなんです。

 発達障害でも、おそらく多くの遺伝子の組み合わせによって素因が左右され、そこに環境要因も影響しながら特性が決まっていきます。ですから、両親にはそんな傾向は全然ないけれど、子どもはADHD、ASDという場合もあるわけです。ただ、何万人という患者さんのデータを統計学的に処理してみると、遺伝的素因の強さは50%を超えてくる、ということです。

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