公立中学校での大胆な教育改革で話題になった工藤勇一さんは、子どもへの声かけの内容を工夫することが自己肯定感を育んでいくと話します。将来の「生きる力」を養うポイントを、『AERA English特別号「英語に強くなる小学校選び2023」』(朝日新聞出版刊)から抜粋して紹介します。

MENU 「心理的安全性」が子どもの自律を促す  繰り返すべきは自己決定のやりとり 

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 横浜創英中学・高等学校で2020年から校長を務める工藤勇一さんは、現在の日本の子どもたちについて「最も失ってはいけない『生きる力』を失ってしまった」と指摘する。工藤さんによると、「生きる力」とは「主体的であること」と「多様性を受け入れること」の二つで構成される。「生きる力」を失った要因は日本の教育にあるというのが工藤さんの考えだ。

「日本では与え続ける教育をします。指示待ちによって、子どもは自分で考えなくなります。『生きる力』を削ぐような教育がいたるところで行われているのです」

 工藤さんによると、「日本全体がサービスを求め、他人に期待ばかりする世の中になったこと」が教育にも影響している。教育の現場では、教える側が手をかけすぎると、子どもたちは自分で物事を考えられなくなる。家庭においても同様で、親は何かにつけて子どもの行動をコントロールしようとするが、それでは逆効果になってしまう。

「心理的安全性」が子どもの自律を促す 

 物事を自分で考えなくなった状態のことを、工藤さんは「自律できていない」と表現する。そして、自律できなくなった子どもは「うまくいかないことがあると、必ず他人のせいにする」と続ける。

 朝、子どもがなかなか起きられない状況を想像してみよう。親が起こそうと思って声をかける。最初のうちは言うことを聞くが、成長するにつれて「うるさい!」と反抗するようになるかもしれない。親は良かれと思って起こす“サービス”を提供するが、子どもはサポートを受けることに慣れ、やがてそのサービスの質に不満を漏らす。起きられなかったことを親のせいにし、「起こし方が悪い」と文句を言うようになる。

 こうした状況を回避し、子どもが自律できるようにするにはどうすればいいのか。工藤さんは「二つの側面で心理的安全性を確保し、子どもが親御さんのことを嫌いになったり、劣等感を感じたりしないようにすることが重要です」と提言する。

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池田敏明
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