「一つはむやみに子どもを叱らない、きょうだいやほかのお子さんと比較しないなどの方法で、環境として心理的安全性を担保してあげること。これによって、子どもはのびのびと能動的に行動できるようになります。もう一つは、ストレスのある環境にいても、自分自身で脳の心理的安全性を保つ力を持つこと。親がストレスを与えないようにしても、生きていれば必ずストレスがあります。どんなにストレスがあっても、自分の力で心理的安全性を保てる力をつけることが大切です」

繰り返すべきは自己決定のやりとり 

 家庭において子どもの心理的安全性を保つには、失敗をしても許される環境を整える必要がある。そのためには、親の声かけに工夫が必要だと工藤さんは主張する。

「まずは『どうしたの?』と声をかけて子どもの意見を聞き、次に『どうしたい?』と尋ね、希望を聞いたうえで『そのためには何をすればいい?』と問いかけます」

 この声かけは、子どもが自分の行動を自分で決めることにつながる。自分の意思で決定する行為によって子どもの心理的安全性が保たれ、実際に行動することで自己肯定感が高められていく。

 工藤さんは「親子関係で不幸にならないことが一番大切」と語る。「子育てがうまくいかないと、親御さんは自分を責めるようになったり、たとえば夫婦間で責任を押しつけ合ったりするようになります。そうなると、子どもも『自分はダメな子なんだ』と自分を責めるようになり、そこから友人や先生など他人を責め、最悪の場合は自分にとって最も身近な存在である親を責めるようになります」

 この悪循環を回避するために工藤さんが勧めるのは、うまくいかなかった行動は続けず、別のアプローチを考える方法だ。朝、なかなか起きられないケースでも、「朝、起こしにいって反抗されるのであれば、それを続けるのではなく、別の方法を考えましょう。寝ているときに声をかけると子どもがイライラする。それならば別の時間に話し合ってみるのです」と工藤さん。たとえば夕食時など、親子で楽しく会話できる時間帯を見計らって「起きられなかったけどどうしたの?」「どうしたいの?」「そのためにはママ(パパ)は何をすればいいの?」と話し合う。そうやって心理的安全性を担保しつつ、子どもが能動的に行動できるように促す。

 工藤さんは「親がやるべきは、どうやって子育てから手を離すかです。過干渉するのではなく、上手に手を離していく訓練をしなければなりません」と話す。特に子どもが小さいうちは手がかかるが、手をかけ過ぎると親子ともども不幸になってしまう。ほどよい距離感で心理的安全性を保つ関係性が、子どもの自律を促していく。

■工藤勇一/東京都千代田区立麹町中学校の校長時代、宿題や定期テストを廃止するといった教育改革で注目を集めた。2020年4月から横浜創英中学・高等学校の校長を務める。『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』(共著、講談社現代新書)など著書多数。

(文・池田敏明)

※『AERA English特別号「英語に強くなる小学校選び2024」』2023年7月発売予定

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池田敏明
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