安浪:今はさまざまな媒体から未就学児から入塾対策をするような情報などもいっぱい出てきます。繰り返しになりますが、親の中で確固たる決意があるんだったら中学受験の道に突き進めばいいと思いますが、周りがやっているから、という程度だったらやらないほうがいいと思いますね。中途半端に小さい頃から手を出して、後になって勉強が嫌いになったら大変です。とにかくそれだけは避けてほしい。
矢萩:学ぶことが嫌いにだけはならないでほしい。でも現実にはあっという間に嫌いになっちゃったりしますから。特に算数ができなくてトラウマになってしまうケースは結構多いんです。そうすると中学に進学したときにうまく数学に移行できない。実際は、中学受験の算数が分からなくても数学はできますし、成長もしていますから理解しやすくもなっている、にもかかわらずです。本当は理系に進んだほうが夢ややりたいことに近づけるだろうな、っていう感じなのに、「数学無理なんで文系行きます」って思いこんでしまっていたり。もったいないですよね。
■中学受験の算数はトラウマを生みやすい
安浪:わかります…中学受験の算数はトラウマを生みやすいんですよね。受験算数も、その子の理解できるペースで進めていけば楽しくなったと思うんです。でも、入試という期限がある中では、理解云々に関係なくカリキュラムが進んでいく。その中で成果を出せる子もいれば、出せない子もいる。でも、中学受験期に算数で日の目を見られなくても、中学生になって数学が花開く子もたくさん見てきました。もちろん、算数と数学という科目特性の違いも大きいですが、本来受験算数って、楽しいものなんです。そこが、中学受験の難しいところです。だから、親御さんにはことあるごとに「わが子の適性を見極めながら、わが家の中学受験の軸を持ってください」とお伝えしているんです。
(構成/教育エディター・江口祐子)
○安浪京子(やすなみ・きょうこ)/「きょうこ先生」として親しまれている中学受験専門カウンセラー、算数教育家。著書に、佐藤亮子さんとの共著『親がやるべき受験サポート』(朝日新聞出版)、『中学受験にチャレンジするきみへ 勉強とメンタルW必勝法』(大和書房)など。
○矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『自分で考える力を鍛える 正解のない教室』(朝日新聞出版)、『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)など。