妻の不機嫌や怒りの理由を「男女の脳のとっさの使い方」の違いに注目して解説し、夫側の対策をまとめた『妻のトリセツ』がベストセラーとなった脳科学・人工知能研究者の黒川伊保子さん。自身は一人息子(31)を育てた母でもある。黒川さんの息子育ての目標は、「母も惚れるいい男」にすること。実践された育児方法や、夫婦関係がよくなるヒントを聞いた。

――『息子のトリセツ』(2020年、扶桑社)も書かれた黒川さんですが、息子さんの子育てはどのようにされたのですか? 

 私が31歳のときに息子を出産したのですが、当時、人工知能の開発の研究をしていて脳の機能性を追究していました。研究と一緒で、子育ても長期目標がいる。目標がないと、世間の評価に振り回されて、育児で迷ったときに正しい判断ができないと考えたので、まずテーマを決めました。それが「母も惚れるいい男」でした。頭にふと浮かんだの。

――「いい男」とは、頭がよくてかっこよくて……というような?

 いえいえ、世間でいうエリートはまったく求めていません。エリートになると、海外で仕事をするとか激務で家に帰ってこないとか、まったく会えなくなっちゃうじゃないですか。それは他の人にお任せして(笑)。私の言う「いい男」とは、自分の言葉で宇宙を語れる人。言葉で頭のイメージを伝えられることは、生きる上でとても重要なので、生まれたときからずっと話しかけていました。8歳までが脳の言語機能完成期とされているので、それまで読み聞かせなどもたくさんしました。

――どんな言葉をかけたのですか?

 一番は、愛を伝える言葉ですね。私は、愛は言葉で伝えないといけないと考えているんです。愛は、言葉にしなくても伝わるけど、言葉以外の愛は、とっさに記憶からは取り出せないんです。

「雰囲気」とか「情景」は、言葉にできる記憶に紐づけされているだけで、とっさには想起できません。母の温かい手の記憶は、何かの拍子にふと出てくるかもしれないけど、「私が生まれてきたことに意味があったのか」という疑問の回答にはなってくれません。子どもが人生に迷ったとき、自分の存在意義を見失いそうになったとき、その答えになる言葉を先にあげておきたい。私はそう思ったので、「生まれてきてくれて、ありがとう」「あなたがいてくれて幸せ」ということをよく伝えていました。

 今は、6カ月の孫に。31歳の息子にもついでに言ってますけど、今や彼は、妻の愛で生きているので、母の愛には上の空ですね(微笑)。

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平井啓子
平井啓子

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