毎月最終日曜日の午後7時から放送の「村上RADIO」。村上春樹さんは放送原稿を自ら書き、テーマも提案することが多いという(写真:TOKYO
毎月最終日曜日の午後7時から放送の「村上RADIO」。村上春樹さんは放送原稿を自ら書き、テーマも提案することが多いという(写真:TOKYO FM提供)

 村上春樹さんがDJを務めるラジオ番組「村上RADIO」。ゼネラルプロデューサーの延江浩さんが、DJとしての村上さんの魅力を語る。AERA 2023年4月17日号の記事を紹介する。

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 村上春樹さんがDJを務めるTOKYO FMの番組「村上RADIO」にゼネラルプロデューサーとして関わっています。番組開始は2018年8月。その年の1月、知り合いの編集者から「村上さんがラジオに興味をお持ちなので、もしかしたら」と聞きました。でもそのときはまだ雲をつかむような話でした。

 ところが3カ月後、4月のある晴れた午後に春樹さんが局に来ることに。20分ほどたわいのない話をした後、「ラジオのスタジオ、ご興味ありますか?」と案内しました。実はそこで「仕掛け」を。春樹さんが高校生の時に初めて買った(ジャズピアニストの)ホレス・シルバーのLPレコードを、マイクのそばに置いておいたんです。

 春樹さん、「あ」と言ってシルバーの話を始めました。私たちはその語りをこっそり録音し、あたかも一人でDJをしているかのように編集して、後日ご本人に届けました。そこからですね、歯車が回り始めたのは。最初は「アシスタントも欲しいかな」とおっしゃったんですけど、リスナーは春樹さん以外の声は聴きたくないはず。私は深夜に男がレコードを回しながらマイクに向かうドナルド・フェイゲンの有名なLPジャケット(「ナイトフライ」)を見せて「こういうイメージで」と伝え、一人語りが定着することになりました。

 DJとしての春樹さんの魅力は、まずはあの声です。声優や俳優にはない、初々しさと甘酸っぱさと青春のはかなさをも含んだ、「未完成の声」ですね。

 番組では主に洋楽をかけますが、紹介する歌詞は春樹さんが自分で訳している。これもリスナーや音楽愛好家にとってはたまらない。「ジャズで文章を学んだ」と言っているほどの方ですから、音楽に精通されているところも魅力だと思います。

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