負担の大きさから敬遠されがちな管理職だが、発想の転換でそのとらえ方も変わってくる。鍵を握るのは自分の成長だ。900人以上のビジネスパーソンに取材した健康社会学者・河合薫さんが解説する。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。

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 私は900人以上の管理職を取材してきましたが、「世の中で最も大変な仕事じゃないか」と思うこともあります。管理職のポストは減っていく中で任される仕事は増え、年々過酷になっている。昔は他部署の上司との「斜めの関係」で助言を得たりもできたけど、いまは許されない。「課長にならなきゃよかった」「管理職にはなりたくない」という声も聞きます。

 会社側にも責任があります。管理職とはプレーヤーとは明らかに別の、人をマネジメントしつつ経営的なところに関わっていく仕事。「管理職は何のためにあるのか」を明確に意味づけするメッセージを出しつつ、ヒューマンスキルの向上も含めた十分なトレーニング(研修)が必要なのですが、決定的に欠けている。学ぶ機会があれば「大変さ」の中でも、「管理職などできないと思っていたけど、できるな」などと実感でき、自分が変わり、成長するチャンスにできると思います。

「上と下にはさまれた苦労」もよく言われます。ただ、考えてみれば上司があなたに難しいことを言ってくるのは、「その上司の上司」に評価されないから。「上司の顔を立てる」ことも組織で生き残るためには大切です。10のうち7くらいは上司の出世に役立つことをやると割り切り、残りの3割で管理職のポジションと裁量権を「利用して」、自分が成長できそうなことを仕事人に徹して一生懸命やってみる。1か10かではなく、発想の転換で管理職のとらえ方も変わってくるはずです。

「部下が言うことを聞かない」も、「聞かせよう」がすでに驕りです。ここも「上司に7、自分に3」と同じで、部下がやりたいと思っていることを引き出しつつ、「だったらこれをやってみれば」と、部下の仕事の役に立つことを言ってあげるように心がける。心の距離が縮まったら、「ちょっと協力してもらえないかな」と持っていく。

 部下を成長させるには、現場で熱くなった経験が一番大事。ただ、部下の世代の価値観に合ったやり方で熱くさせる工夫が必要です。そこも考えつつ学び、考え、挑戦してみる。他企業の管理職とも意見交換してみる。そんな過程で、「部下を動かす」ことが逆に面白くなってくるのではないかと思います。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年3月27日号