性的少数者や同性婚をめぐって差別発言をした荒井勝喜首相秘書官が更迭された。岸田文雄首相の発言や対応についても批判の声が相次ぐ。今回の事態について、ジャーナリストの江川紹子さんに話を聞いた。AERA 2023年2月20日号の記事を紹介する。

*  *  *

 更迭された荒井勝喜前首相秘書官が差別的な発言をしたのは、オフレコを前提にした取材の場でした。その場に約10人の記者がいたわけですが、荒井氏は「何を言っても記事にはならない」と高をくくっていたように思います。つまり、記者は「従順な御用聞き」としてなめられていたのではないでしょうか。

 私は、オフレコ取材そのものを非難するつもりはありません。状況によっては情報発信者の立場を守ることになりますし、背景を踏まえた解説を聞いたり、公的には言えない裏側の事情を知ることができたりもする。取材とは、目の前の事実とともに、こっそり「実はね」と聞かされた話を積み重ねていくものだからです。

 今回の発言を最初に報じたのは毎日新聞でした。今後の取材がやりにくくなるなどのリスクが想定される中で、相当な検討を重ねた上での「オフレコ破り」でしょう。荒井氏の発言内容がひどいことはもちろん、首相官邸という公的な環境で、秘書官の広報業務として毎日行われていた定例会見の場だったことからも、報じるという判断は正しかったと思います。居酒屋で記者と1対1で飲みながら聞き出した、個人的な発言ではないのですから。

 それに、たとえ毎日新聞が書かなくとも、いずれ発言内容は漏れて、文春など週刊誌が書くと思います。その時、新聞は「なぜ報じなかったのか」「なぜ隠蔽(いんぺい)したのか」と批判を受けるでしょう。新聞の社会的信用を損なわないためにも、非常に重要な行動だったと思います。

 岸田文雄首相は就任当初、「聞く力」をアピールしていましたが、多忙を極める中では様々な人の声を直接聞く機会も限られ、秘書官をはじめ周囲の情報収集力に頼らざるを得ません。荒井氏はオンレコで行われた釈明会見の場で「(同性婚は)反対の人が多いのではないか」とも発言していますが、朝日新聞の世論調査では同性婚の賛成は6割超です。秘書官によって間違った認識が首相にインプットされているかもしれない状況に危機感を覚えました。

 首相周辺が偏った価値観の人で固まっているかもしれないことが疑われる事実があったわけですから、それを伝えるのはメディアの責任と役割だと思います。

(構成/編集部・古田真梨子)

AERA 2023年2月20日号